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りくらぼ株式会社 代表取締役

坂野志起

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SHIKI BANNO

1999年生まれ、兵庫県出身。高校卒業後、人材派遣業界へ就職。登録スタッフの管理・新規顧客開拓など業界全般の業務に4年間携わる。人材紹介業界へ転職しキャリアアドバイザーとして、就職・転職サポートに携わる。トップの営業成績を収めながら社内システムの開発・運用も担い、人材紹介業界の発展を目標に2023年りくらぼを設立。

 以前はいい印象を持たれなかった転職が当たり前のものとなりつつある状況に坂野氏は「転職の需要は非常に高いです。転職を希望される方の母数が増えたため、中途採用の競争率は年々上がっているように感じます」と語る。そんな中、多くの求職者が抱える大きな困難が面接だという。企業によって面接のスタイルは異なり、一定の正解がないためだ。

 「転職支援では私たちの実体験を元にすることをテーマとしています。例えば、私たちが顧客企業様の面接を体験させてもらうこともあります。すると、実際の面接の雰囲気を体感した私たちだからこそ、リアルな情報を求職者の方々にお伝えすることができる」と説明する。

 さらに、直接体験の取り組みは面接以外にも及ぶ。「入社前と後のギャップを少なくするため、求職者の方にはイメージをより鮮明に持ってもらいたい。そこで、就業先に私たちが訪れ、実際に働かせてもらうこともあります。写真の撮影をし、求職者向けの資料に落とし込んだ上で、実体験をお伝えしています」と坂野氏は話す。求人票だけでは知ることのない情報を同社が先んじて体験することで、求職者にとっては不安の解消につながる。業界でも斬新といえる取り組みについて、坂野氏は「だからこそチャンスであり、当社にしか出せない色といえるでしょう」と自信を見せる。

 求職者の心に寄り添う同社の取り組みは対人支援だけに留まらない。「ARM(オート・レジュメ・メーカー)」と呼ばれるAIを駆使したツールで、履歴書や職務経歴書作成の支援も行っている。ARMの開発背景について坂野氏は「履歴書や職務経歴書は仕事を探す上では欠かせないもの。しかし、文章を書くことに長けている人とそうではない人もいます」という。「実際に話してみると、人柄が非常に良くて、面接までいけば内定が出るだろうと思う人でも、書類の内容が良くなければ、落とされる可能性が高いです。ですので、文章力を平等に担保すれば、面接まで繋がると考えました。面接に進むことができれば、人柄を判断してもらえると思います。そのような思いが開発のきっかけでした。」と語る。

 ARMの強みの一つがタグと呼ばれる機能だ。例えば、長所を質問されても自分の長所を瞬時に答えられる求職者は多くない。そこで、長所に関する項目をあらかじめタグとして用意し、ARM利用者に選択してもらう機能を設けた。加えて、選択を重ねていくうちにAIが徐々に分析を深めていくことも特徴的で、今までの職歴と組み合わせたオリジナルの自己PRが生成可能だという。

 求職者の満足度が高い一方、開発には苦労があった。「技術的な面でいえば、個人情報を扱うため、テストは十数万回行いました。ビジネスの面でいえば、書類作成は就職や転職活動における一部分にすぎないため、需要が高いとしても決していいとはいえません。それでも、求職者の方々に安心を提供したかった。そして今、サービスが展開できている状況です」と明かす。

 坂野氏が人材紹介業界に携わったのは、高校卒業後、人材派遣業に4年勤めた後で、営業として会社トップの成績を収めたこともあった。人材派遣業から人材紹介業へ転職し、不安な日々を過ごした経験はりくらぼの事業にも生きている。求職者にとって就職や転職活動が少しでも楽しくワクワクする体験にしたいというのが坂野氏の願いだ。「就職や転職は新しいスタートそのもの。せっかくなら、さまざまな求人を見てもらった上で『ここに入りたい』という思いで臨んでほしい」と語る。

 実際、同社の取り組みは、求職者の心にも刺さっているようだ。「『ここまでしてくれるのか』という反応をよく目にします。他社さんが多くある中で当社でサポートを希望される方が増えることは、利益上だけではなく、いい人間関係の場が構築されるという面でもメリットなのです」という。就職や転職以外の悩み相談を受けることもあるなど求職者と距離が近いことが同社の強みといえる。

 「就職や転職を楽しいものに」という坂野氏は「求職者の方と伴走し、10年後に思い出してもらえるような会社にしたい。求職者の方から『あの人にもう一度サポートしてもらいたい』と思ってもらえる状態を作り上げたいです」と前を向く。創業から2年目を迎え、坂野氏の〝求職者ファースト〟の思いは、今後も事業の推進力となっていく。