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株式会社ぐるなび 代表取締役社長

杉原章郎

AKIO SUGIHARA

1969年広島県生まれ。1996年慶應義塾大学大学院修士課程修了時にインターネットサービスベンチャー会社の起業。1997年に現在の楽天グループ株式会社の共同創業者として参画し、「楽天市場」の出店営業を統括。その後、新規事業開発担当役員、システム開発部門担当役員、人事・総務部門担当役員を務めた。2019年から株式会社ぐるなび代表取締役社長。

 変化が急速な現代、杉原社長は「よりよい食を維持したい。その取り組みを継続しながら発展させたいと思う人たちも非常に多い。特に気候変動に伴って食材の生産から維持、調達、流通が難しくなれば、等しく人々の口に入る機会も減ってしまう。一方で技術で食を支える人や、料理の工夫をする人、より安価に美味しく提供するなど努力を尽くしている人もいます。当社は、そのような食にまつわる活動を大事にしていきたい。そして、食を大事にされている方をサービスやシステム、プラットフォームで支援していきたいです」と思いを語る。

 そんな同社が2024年8月から行ってきた社内検証を通じて、ベータ版をリリースした「UMAME!(うまみー!)」は、生成AIを活用し、ユーザー一人一人に合った飲食店を提案するアプリだ。ユーザーが予期せぬ飲食店に出会うことも可能で、利用すればするほどAIはユーザーのニーズを学習していくという。

 新たな食体験をアプリを通じて提案することについて、杉原社長は「AIというと、『難しそう』『機械のようで怖い』などのイメージがあるでしょう。しかし、今後時代が進むにつれてAIは私たちのパートナーのようになっていくはずです。そのためにまず大事なのは、身近なところから人々を便利にすること。そこで、当社の強みである食事や食体験から始めるべきと考え、『UMAME!』をリリースしました」と話す。

 また、「使っていくうちにAIは、誰よりも自分の食について詳しいパートナーになるはずです。明日何を食べるべきか、次のビジネスランチはどこにするべきか、など、ユーザーにとってより近い存在となるサービスにしていきます」という。情報のパーソナライズを行い、ユーザーが”育てていく”アプリだという。

 さらに容易に多言語化できるので、インバウンドやアウトバウンドだけではなく、日本以外の国同士で使われるポテンシャルも秘めているという。アプリが日本でスタンダードな存在になれば、世界中に進出できる可能性もあるといい、日本だけでなく、世界も見据えてよりよい食体験の提供を目指している。 

 同社が飲食店向けソリューションの一環として取り組んでいるのが「ぐるなびFineOrder」だ。モバイルオーダーサービスで、アクティブ率は驚異の97%を誇る。「モバイルオーダーの導入は、結果的にホスピタリティのさらなる向上につながると考えています。オーダーは確かに必須の業務ですが、お客さまにしてもらうことで、店員の方々は各テーブルにおもてなしする余裕ができます」と話す杉原社長。ホスピタリティの向上は、来店客のロイヤリティが高まるだけでなく、各飲食店の強みをさらに強化することにつながるのだ。加えて、同サービスの導入と提案の際は一つひとつの飲食店に寄り添うことを心がけているという。DXを推進すると同時に、人対人のサポートである根源は変わらない。

  同社のユニークな取り組みの一つに「幹事ガンバレプロジェクト」がある。同プロジェクトではレギュラー幹事、エース幹事、ロイヤル幹事の幹事ランクが設けられている。そして、楽天ぐるなびでのネット予約を通し、一カ月に来店した累計人数に応じて3種類のランクに振り分けられるという仕組み、幹事ランクに応じた幹事ポイントが進呈される。幹事を務める機会の多い人々にとっては、まさに痒い所に手が届く斬新な戦略。ネット予約へのリピート意欲向上にも期待できる。 

 大きな広がりを見せている食体験。杉原社長の今後の目標は日本や世界だけではなく、宇宙食の開発にまで及ぶ。「宇宙旅行が実現した暁には、素晴らしい景色とともに美味しい食事を堪能できるとすばらしい思い出になるはずです。願わくは当社の事業として携わることができれば、これほど楽しいことはありません」という。さらに「窓の外に見える景色を見ながら、食べることや飲むことを楽しむ。生きていてよかったと思っていただけるようなシーンをつくっていきたい」と力を込める。

 飲食店情報サービスの多言語化をはじめ飲食店に特化した様々なICTツール開発の先駆的な存在である同社は、新たなものを取り込むことはカルチャーとして根付いており、AIもその延長だという。「実は各国を見ても、食に関するわずらわしさをクリアしてくれるサービスは少ない。そのような課題を、AIを活用して全世界的に解決していきたい」という。人が生きる限り、食は切り離せないもの。杉原社長の理想が実現される未来も、そう遠くない。