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カゴメ株式会社 代表取締役社長

山口 聡

SATOSHI YAMAGUCHI

1960年、静岡県生まれ。1983年、東北大学農学部食糧化学科を卒業後、カゴメ株式会社に入社。品質管理や商品設計に従事し、2003年業務用ビジネスユニット部長に就任。執行役員業務用事業本部長、執行役員イノベーション本部長を経て、2018年に執行役員野菜事業本部長。2019年取締役常務執行役員、2020年から現職。

 山口氏は農学部を卒業後、1983年に入社し、茨城の工場からキャリアをスタートさせた。品質管理や商品設計を担当していたころ、トマト加工事業のみでは発展性が見込めないとして、カゴメは商品の多角化による事業拡大に踏み切った。レトルトカレーや焼き肉のタレなど多様な商品を開発し、初めこそ売り上げを伸ばしたものの、次第に行き詰まり業績は低迷。そこで一旦、トマトを中心とする事業に軸足を戻すことになった。

 山口氏は「さまざまな商品を手掛けた結果、〝カゴメらしさ〟から離れるほど、商品が売れなくなることがはっきりしました」と振り返る。創業から一貫して農業を原点とする商品を生み出し、人々の健康に貢献してきた〝カゴメらしさ〟を追求する方が、消費者にとっては受け入れやすいことに気付いた。

 その後、2012年にトマトが健康に良いと話題になり、空前の〝トマトブーム〟が到来。創業以来の最高益を上げたが、すぐにブームは去り、反動で減益に転じた。当時のトップはトマト加工事業だけでも限界があると考え、将来の事業環境の変化について徹底的に話し合い、2025年のありたい姿を「食を通じて社会課題の解決に取り組み、持続的に成長する強い企業」と定め、その実現のために、「トマトの会社から、野菜の会社に」という長期ビジョンを策定した。トマトに軸を置きながら、対象を野菜全般にまで広げ、再び事業拡大を目指した。山口氏は「幅広い商品を提供することで、結果的にみなさんの健康にもより貢献できると考えました」と語る。

 日本人の「野菜不足」が言われる中、「野菜の会社」として、野菜摂取推進の活動を意欲的に進めている。社長に就任した2020年1月から野菜摂取推進活動「野菜をとろうキャンペーン」を開始し、キャンペーンに賛同する19の企業・団体と共同で、「野菜をとろう 350g」をスローガンにかかげ、野菜の魅力を発信し、野菜摂取への意識変容と行動変容の促進に貢献する活動に取り組んでいるという。「2024年7月には、プロジェクト初の大規模イベント『野菜をとろうフォーラム』を都内で開催し、200人を超える方に参加いただきました」と振り返る。

 カゴメが提供する推定野菜摂取量測定器「ベジチェック」の認知も広がっており、企業や自治体、スーパーマーケットの青果売場など、設置場所も拡大し、累計測定回数は1000万回を超えた。「野菜摂取推進の取り組みは着実に進展しています。ただ、日本人の野菜摂取量は、1日の目標である350gにはまだまだ足りておらず、今後は野菜摂取推進を、より社会的なムーブメントにしていかなければなりません」と語る。

 一方で、気候変動の深刻化により、今後、農産物原料の安定調達は困難になることが予想される。「そのような環境の下でカゴメが持続的な成長を遂げていくためには、気候変動に起因する農業の課題としっかり向き合い、私たち自身で解決していかなげればなりません」と決意する。農業は1年単位で物ごとが動いており、課題の解決には時間を要するため、今から行動することが重要と考え、2023年よりバリューチェーンの進化に向けたアクションを開始した。

 その一つが、品種開発・栽培技術など、バリューチェーンの最も川上に位置する農業研究の強化である。2023年10月には、国内外に分散していた品種や栽培技術の開発部門をひとつに集約した「グローバル・アグリ・リサーチ&ビジネスセンター」を設立、そして2024年の4月には、カリフォルニア州に同センターの米国法人を設立した。そして同年9月には、最先端の農業技術を有するスタートアップ企業とのオープンイノベーションを加速させるため、コーポレートベンチャーキャピタルを立ち上げた。「今後は、農業技術の開発を加速するために研究投資を増やし、そこで得られた多くの知見を世界各地に展開することで、農業が直面する課題の解決につなげたい。」と力を込める。

 2025年は、カゴメが2016年から進めている長期計画の最終年度であり、この10年を締めくくる年であるという。2025年のありたい姿として掲げている「食を通じて社会課題の解決に取り組み、持続的に成長できる強い企業」としてのミッションを果たすべく、「健康寿命の延伸、農業振興・地方創生、そして持続可能な地球環境の三つの社会課題に、引き続き取り組んでまいります」と語る。

 現在、次の10年に向けた計画を策定しているところだというが、「社会課題の解決に貢献することで、事業成長を図るという方針は変わらない。カゴメの持つリソースをフル活用して、社会課題、とりわけ農業領域の課題解決に引き続き取り組んでいく」と展望を語る。健康という社会課題においても、時代の変化やニーズを捉え、身体面だけでなく、精神や社会的な健康の実現に貢献できる取り組みを推し進めていく。