1962年生まれ。兵庫県神戸市出身。アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア)、日本IBM、SAPジャパンを経て、2018年にアシックスに執行役員CIOとして入社。常務執行役員CDO・CIOなどを歴任後、2024年1月社長COO就任にし、3月より現職。
入社以来、デジタルドリブンカンパニーへの変革に取り組んできた富永氏は、特に二つのデジタル戦略に注力してきた。その一つが全世界の基幹システムをOne data base化する「大志プロジェクト」だ。データ経営を進めるためには、ビジネスの〝見える化〟が必要で、各地域で基幹システムの仕様が異なっていたシステムをグローバルで統一するものだ。
同社は、海外売上比率が8割を占め、システムが統一されていないと、国ごとの売上や在庫情報などがリアルタイムで見られず、市場ニーズも迅速に把握できなかった。プロジェクトをリードした富永氏は「システムのインフラストラクチャーはある程度整ってきましたが、まだまだ効果を最大化できる余地はあると思います。今後は、取得データを需要予測や在庫管理などにどう活かすかが重要になっていきます。あと数年かけて世界水準のオペレーショナルエクセレンスの実現を目指します」と力を込める。
もう一つが、メンバーシッププログラム「OneASICS」による差別化だ。「2018年ごろまでは、卸業者を経由した販売が70%以上を占め、お客さまとの接点が限定的でした。そのため、誰が買ってくれたのか、なぜ買ってくれたかなどお客さまの購買動向の可視化を進めるべく、OneASICSを起点にしたオムニチャネル戦略を進めました。また、製品だけでなくサービスの提供を通じて、一人一人の目的やニーズにあった価値や体験など付加価値を重視しました」と話す。例えば、ランニングなど日々のトレーニングを記録できるアプリやカナダなどのレース登録サイトを買収し、OneASICSと連携させることで、お客さまと直接的なコミュニケーションが可能になった。そのほかさまざまな戦略が功を奏し、2024年12月期時点で、約1764万人が会員登録するなど、EC売上高は1371億円と会社全体の売上高の2割程度を占めるまでに成長した。「OneASICSを経営の軸に、デジタルを活用したブランド体験価値を高め、2026年にはOneASICS会員数3000万人達成を目指します」と意気込む。
入社から約6年後の2024年1月、社長に就任した富永氏は、さらなる成長に向けて「Global Integrated Enterprise(GIE)への変革」に取り組んでいる。「海外売上比率が80%ほどあり、先進国だけでなく新興国の売上も伸びていますが、オペレーションの部分でまだまだ伸び代があります」という。さらに、GIEへの変革に伴い、同社は日本にこだわらず、全世界から多様なバックグラウンドを持つ人財を確保・発掘し、適材適所の配置を行うなどグローバル最適化を進める考えだ。
「グローバルでビジネスをリードできる人財に機会を提供し、スキルやノウハウを発揮してもらうことで、会社の成長をさらに強固にするフェーズに来ています」といい、例えばアムステルダムやボストンに拠点を置き、SAP FMSグローバル展開やデジタルマーケティングなどを行っている。
また、社員の職場環境について「グローバル人財が、やりたいことを通じて成長でき、会社に来ることが楽しいなど、生き生きと仕事ができ、 アシックスで働き続けたいと思えるような環境に整えていきます」と語る。
2024年に過去最高の売り上げを記録しながら、現状に甘んじることはない。「ランニングやテニスなど我々が強みを発揮できるカテゴリーで業界ナンバーワンに向けた取り組みを進めています」と高みを目指す。
とはいえ、勝つことだけにこだわっているわけではない。会社経営を通して、社会全体にスポーツそのものの魅力を伝えていきたいという。「スポーツと聞くと、どうしても勝負の世界のイメージがあると思います。引き続きアスリートの支援も行っていきますが、身体を動かすことで思考がクリアになったり、気分が高揚したりする点も発信していきます」と語る。
新卒から約40年、IT畑を歩み、自身の「得意」や「好き」を突き詰めてきたともいえる富永氏は「社会人になってからの時間は非常に長いです。みなさんには、自分が得意なことや好きだと思えることを強みに、誰にも負けない分野をつくり、プロフェッショナルとして世界の中で頑張ってもらいたいと思います」とエールを送る。