1951年生まれ、東京都出身。75年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、電通に入社し、イベントプロデューサーとして活躍。76年にビームス設立にかかわり、東京・原宿に1号店「American Life Shop BEAMS」をオープン。83年、電通を退社。88年に代表取締役に就任。様々なライフスタイルを提案する店舗を次々に展開。
49年前に1号店「American Life Shop BEAMS」を原宿にオープンした頃、流通の王様は百貨店だった。セレクトショップは、百貨店のように何でも揃うわけではないが、オーナーのテイストで好きなものを集める十貨店、「この指とまれ」で“同好の士”がやってくる場所だった。設楽代表は「今のようにモノや情報があふれる前は、誰も見たことがないものを海外で仕入れてくるのが私たちの役割でした。何でも手に入る今、セレクトショップに求められているのは、膨大なモノや情報の中から『これがいいよ』と絞って紹介してあげることなんです」と語る。
コロナ禍では多くの店舗が休業を余儀なくされ、販路はオンラインに限られた。当時、公式オンラインショップの売り上げを支えたのが、スタッフによるオンラインコンテンツの投稿だった。スタッフおススメのアイテムやコーディネートなど、スタッフの投稿コンテンツを経由した売り上げは、7割に達したという。設楽代表は「“人”中心のビジネスは間違いではなかったと確信した」と明かす。
BEAMSで働くスタッフのライフスタイルにフォーカスしたブックシリーズ「BEAMS AT HOME」は第7弾まで発行され、国内外で37万部を超える人気を呼んでいる。登場するスタッフは、アウトドア派やサーフィン好き、音楽好き、オタク系など、キャラクターも暮らしぶりも実にさまざま。店頭にも、イタリア製のスーツからTシャツ短パン姿まで、いろいろなファッションのスタッフがいて、それぞれにファンが付いている。
設楽代表は「マストレンドに踊らされる時代から、個々で趣味や好きなことを楽しむ時代に移行し、さらにここ数年で価値観の近い“個”が集まってコミュニティーを形成する時代に変わってきた。人とのつながりの中でこそ、ハッピーが起こるんだと思います」と語る。そんな思いから昨年、同社がミッションとして掲げてきた「Happy Life Solution Company」の“Company”を“Communities”に変え、新たなビジョンとして設定した。
このビジョンを体現し、アパレルのほか古本や飲食など幅広いコンテンツを扱うエンターテインメント提案型の店舗「ビームス ライフ 横浜」が昨年末にオープンした。「ビジネス的には、もっと棚を並べて商品をぎゅうぎゅうに入れるべきでしょうけど、楽しさとか居心地の良さを重視しました。そこに集うお客様とスタッフが意気投合して、一緒にキャンプに行くような仲間になれたらワクワクしますよね」
現在、さまざまな企業・団体との協業によるBtoB事業にも注力している。アパレル以外にお菓子や家電、自動車、住空間、イベントなど異業種からのオファーも増え、年間数百件の問い合わせが舞い込んでくるという。
また自治体との取り組みでは、地域産品やふるさと納税返礼品などのプロデュースも手掛ける。全国の観光名所や景勝地で地元の事業者と運営する店舗「BEAMS JAPAN GATE STORE」では、その土地の伝統工芸品や名産物などを取り上げている。これまでは海外の良いものを国内で紹介してきたが、BEAMS JAPANの店舗は日本の良いものを国内外に紹介する狙いがある。
設楽代表は「外国人観光客はもちろん、国内からも来てもらいたい。私自身、ロンドンの老舗テーラーで『素晴らしいシルクだ』と思ったものが実は日本の着物素材だった、という経験が、これらの事業の起点にあって、海外にも日本の良さを発信するなら、まずは自分たちが日本の良さをもっと知らなければいけないと思っている」と語る。
設楽代表は「時代が変わる瞬間の現場に立ち会うのが好き」だといい、「スタッフたちに『君たちは2020年代風のファッションやライフスタイルを提案しているんだ』ということをよく話します。それを実感できるのはもう少し後でしょうけど。自分の提案がその時代を彩るパーツになるかもしれない。素敵な仕事ですよね」と笑顔を見せる。
時代を意識しながらも、決して時代に流されないBEAMS。設楽代表は「これから何が流行るのかAIで簡単に予測できる時代ですが、街中すべて同じようなお店になってしまうとつまらない。ビジネスだからある程度のマスは狙いますが、とんがった部分は常に持っていたい」と力を込める。
“とんがった部分”を形成するのはやはり個性豊かなスタッフたちだ。「クセが強いけど魅力がある、一芸に秀でている、そんな“とんがった人”を多く採用しています。統制を取るのは大変ですが、それがBEAMSの魅力ですから」と設楽代表は目を細める。
同社の“人”中心のビジネス、そして創業当初の「明るく楽しい社会現象を起こしたい」という思いはこれからも変わらない。設楽代表は「来年の創業50周年に向けていろいろ準備をしているところなので、楽しみにしていてください」と締めくくった。今度はどんな楽しいこと、面白いことを見せてくれるのか、期待せずにはいられない。