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株式会社ソシオラボ 代表取締役

中川郁夫

https://www.sociolabo.jp/
IKUO NAKAGAWA

大手IT企業・コンサル企業で研究職、社内ベンチャー設立・新規事業立ち上げなどを経験する傍ら、フェローとして対外的な情報発信を行う。2021年9月に独立し、株式会社ソシオラボを創立。「変化をチャンスに。」をコンセプトに企業の支援や講演活動などを展開中。東京大学より博士 (情報理工学) 授与。大阪大学招へい准教授、一般社団法人DeruQui発起人・理事、総務省統計局統計委員会臨時委員、杉並区・高岡市アドバイザーなどを兼務。

 技術が急速に発展し、社会が絶え間なく変化する昨今。中川代表は「今の時代は予想ができず、計画通り実行に移してもうまくいかないのは自然なこと。変化に適応するには、PDCAサイクルではなく、挑戦、失敗、学習、そして成長というサイクルを急速に回していくことが必要です」と主張する。

 中川代表が提唱するのが「横と縦」の考え方だ。会社経営には「深化」と「探索」の両軸が必要だと語る。「横の組織と縦の組織は全く異なります。横は深化。効率を重視し、失敗を避け、最適化する術を模索します。一方、縦は探索。常識をぶち壊すために、挑戦〜成長のサイクルを回し、道を切り開いていきます。当社では縦の人材に焦点をあてて、さまざまな取り組みをしています」と説明する。

 横の人材と縦の人材では変化に対するとらえ方も異なる。横の人材は変化をリスクととらえることが多いが、縦の人材は変化をチャンスと見なす。また、横と縦のバランスも重要だという。横の人材は「今の利益」を担い、縦の人材は「将来の可能性」を追う。横と縦は役割分担なのだ。中川代表は「現在は横の人材が圧倒的に多いですが、今後、変化が進むほど、横と縦のバランスは変わっていきます」と予測し、「変化が進む時代に、両軸が機能する仕組みを確立していきます」と意気込む。

 ソシオラボの戦略コンサルティングの強みは未来志向にある。コンサルタントは通常、企業が現在抱える課題に目を向ける。しかし、中川代表は視点を未来に向ける。これから社会がどう変わるのか。そこで生まれるビジネスを考えるためのフレームワークを提供する。

 同時に重要なのが組織と人の話。どのように組織を変革するか、どのような人材が活躍するのかを見据え、変化の時代に求められる人材づくりのワークショップを企業向けに提供している。「我々が行っているのは場づくり。具体的な知識やスキルを教えているわけではありません。大切なのは人材の発掘と成長の機会。縦の人材の気づく力や考える力に意識を向け、それを洗練していく場を提供しています」と話す。

 実際、同社の提供するワークショップは非常に歓迎されているようだ。その満足度を表すのが、NPSと呼ばれる顧客ロイヤルティーを測る指標。マイナス100点からプラス100点までの範囲でスコアをつけるが、同社のワークショップでは参加者のNPSがプラス80を超える。これは、参加者が他人に強く参加をおすすめしたいという評価を示している。この結果に対して中川代表は「我々の取り組みに強い必要性を感じていただいている。一度開催するとリピートしてもらえることも多く、手ごたえがあります」と笑顔を見せる。

 変化する時代とともに人材の成長の場づくりに尽力してきた中川代表だが、キャリアを遡ると、さまざまな出来事を経験してきた。「もともと、IT企業で研究職に就いていました。この会社にいつづけていいのだろうかと悩んでいたときに、当時の社長から『お前みたいなヤツが100人いたら会社は潰れる。でも、お前みたいなヤツが一人はいないと会社は変われない』と言われました」と振り返る。その言葉に自らの役割を強く意識した中川代表は2002年、同社の子会社として新規事業を手掛けるベンチャー企業を設立した。

 子会社設立に伴い社長に説明する際、中川代表は「親会社のために仕事はしない。日本を変える」と宣言した。すると、社長はただ一言「やってみろ」と背中を押したという。中川代表は「人は『管理』ではなく『期待』で成長する。あの時の経験から、そう気づきました」と回顧する。

 挑戦、失敗、学習、成長のサイクルの重要性もその社長から教わった。「新規事業の一つが失敗し、損害は数億円に及びました。当時の社長に失敗の経緯とおわびを伝えたときに返ってきたのは『で、次は何をやるんだ?』の一言でした。挑戦〜成長の過程を、彼は深く理解していたのだと思います」と振り返る。

 中川代表は、当時の社長を「大師匠」と形容する。2021年に独立、株式会社ソシオラボが誕生したのも「そのときの経験や教えがあるからこそ」だという。

 多彩な経験を積んだ現在の中川代表が人々に伝えるメッセージとは。「企業も個人も、自らの価値や存在意義を考えることが重要な時代になりました。どんな社会をつくるのか。そのために自分は何を成し遂げるのか。損得ではなく、理念と共感でステークホルダーとつながっていく。そんな社会を目指しています」と前を向く。変化をチャンスに。目まぐるしい時代を前に、中川代表の挑戦はとどまる所を知らない。