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株式会社ラウンドワン 代表取締役社長

杉野公彦

https://www.round1-group.co.jp/
MASAHIKO SUGINO

1961年9月、大阪府生まれ。1980年桃山学院大学在学中に父親からローラースケート場を引き継ぎ、 現在の経営の元となる複合形態の店舗へ改装し、営業を開始。1993年3月、株式会社ラウンドワンを設立し、取締役社長に就任。1994年12月、旧ローラースケート運営会社を存続会社として株式会社ラウンドワンを吸収合併し、商号を株式会社ラウンドワンへ変更。代表取締役社長に就任。

 今や屋内型複合レジャー施設の代名詞となった「ラウンドワン」だが、杉野代表は「まずはやはり、お客さまに飽きられない店づくりが最優先。繰り返し来店すると、どうしても飽きがきてしまう。毎回新たなものを提供していくことは非常に難しいことですが、ハード面はもちろん、接客などのソフト面も含めて極力“飽きない”工夫を重ねています」と人気の秘訣を明かす。

 最も重要なのは、新たなマシンやアイテムの導入だ。設備投資には一切妥協しない。「おもてなしやサービス精神があればお客さまが来る、という錯覚に陥りがちです。もちろんホスピタリティーは大切ですが、お客さまが最も求めているのは新しい設備です。目に見える変化が重要で、一般的に新たなマシンや機能は、メーカー開発しますが、それを『買えない』『買うのをためらう』ことのないよう、しっかりと利益を確保し、次の設備投資につなげる。このサイクルを継続することが、経営者としての使命だと考えています」

 こうした設備投資への考えは、1980年に前身となる会社が運営していたローラースケート場を父から継承したときから変わらない。杉野代表は「当時、閉鎖が決まっていたローラースケート場の手伝いをする中で、どうしたら新たなお客さまが来てくれるのか。その環境をどう作ればいいのか、と考えたときに、やはり新たなアイテムが必要だと感じました。当時は資金に余裕もなかったため、古い卓球台や閉鎖したボウリング場のマシンなどを買い取り、ローラースケート以外のレジャーを増やしていきました。アイテム数が増えれば、お客さまの層も変わっていくだろうと。ローラースケート場だけでは成り立たない、という考えがラウンドワンの原点です」と語る。

 当時、ボウリング場にゲーム機が数台置かれていることはあったが、ローラースケートに卓球、ビリヤード、ボウリングなどが一同に揃った複合型レジャー施設は珍しかった。

「当初は“飽きられない”ことよりも、多様なニーズに応えたいという思いが強かった。今のように5分前に意思決定をして、1分後に集まるというスピード感ではありませんでした。仲間と1週間前に予定を立てるのが一般的という時代、例えば食事の約束をするときにお店が既に決まっているなら行かないけど、選べるなら行きたい』という人もいるでしょう。レジャーに関しても選択肢がたくさんあるラウンドワンに行こう、という流れを作った」と説明する。

 同社の企業理念は「世界中の人々に『笑顔と健康とコミュニケーションの場』を提供すること」。杉野代表自身も、常にわくわくする気持ちを大切にしている。「誰もが“わくわくしたい”気持ちを持っているはず。それをビジネスにつなげているかどうか。その違いだけであって、人生に疲れない限りはわくわくしたいことをずっと探し求めているのではないでしょうか。私は、それをビジネスに結び付けて、利益にして、その利益を社員やステークホルダー、次のお客さまへの投資につなげるという考え方を持っているというだけです」

 新たなサービスを提供するため、常に挑戦を続ける杉野代表だが、海外での出店実績と運営ノウハウを元に、米国でのフードビジネスへと参入を決めた。「ボウリングやビリヤードなど、元々は米国で生まれたものはありますが、それを複合施設とした日本流のラウンドワンが現地で通用するか。日本では実際に受け入れられたので、同様に日本の良いものをラウンドワン流に広められる」と見込んでいる。

 まずは、日本でも予約困難なすしや日本料理、中華などの銘店4〜6店舗を集め、1ユニットとして構成した店舗を米国内3都市にオープンする予定だ。ここに来ればさまざまなジャンルの「本物の日本食」を味わうことができる。「おいしい日本食は訪日客にとって大きな楽しみの一つですが、予約困難な超一流店にはなかなか行けません。そうした店に加盟いただき、一か所に集めることで、富裕層はもちろん、特別な日に利用してもらえる店舗を目指しています」と語る。

 その一方で、日本ならではの有名店を集めたフードコートの展開も計画中だ。「例えば、大阪だとたこ焼きやお好み焼き、串揚げなど行列ができる人気店も多くありますが、大手グルメサイトでも上位に入ってくるような店でも、そういったところは予約不可のことが多い。そんな日本ならではのグルメを集めたフードコートを北米のラウンドワンに併設していこうと考えています。元々ハンバーガーなどのフードコートは併設しているので、面積を拡大し、日本の人気グルメに置き換える。これも新たなチャレンジですね」と意欲を燃やす。

 常に進化し続けるラウンドワンの原点にあったのは、“飽きさせない”ための設備投資とサービスの拡充だ。レジャー産業で、確かな実績を誇る同社がアメリカで仕掛ける日本流の「食×遊」のエンターテインメントにも期待が高まるばかりだ。

 「日本の将来には誰もが不安を持っていると思う。若い人たちに『30年後の姿をどう想像するか』と聞くと、『暗い』の一言だったりします。それは、資源がほとんどない一方で、食料の輸入量は増えるばかりというのも原因の一つですが、売れるものは意外とたくさんあると思う」と分析する。

 「既に世界に負けないレベルの商品やサービスが多く生まれているにも関わらず、それを持って世界で戦っていこうという人が少ないのは、とても残念なことだと思います。私は日本流の『ラウンドワン』というものを輸出しました。それを軸に、次はフードビジネスにも打って出る予定です。それで利益を上げて、還元する。そういったことを続ければ、次世代も安心して新たな挑戦ができる土台ができる。すべての産業が全部そうだとは言い切れませんが、30年後に世界で通用する技術を持った日本であるためには、今何をしないといけないか、それをもっと考えていかなければいけない」と力を込める。

 「人々を笑顔に」という志で、レジャー産業という枠を超え、日本の将来にも熱い思いを寄せる杉野代表。その挑戦は続く。