大学卒業後、米国モンサントカンパニー医薬品事業部(現ファイザー)に入社。その後、アベンティスベーリング(現CSLベーリング)の設立時に転職し、役員に就任。その後独立し、バイオベンチャー製薬企業である日本バイオテクノファーマ株式会社と、医療コンサルティングファームであるネクストイノベーションパートナーズ株式会社の2社を同時に創業。
篠原代表は「予防することで病気を未然に防ぎ、健康寿命を延ばすことができます」と言い切る。同社では、アルツハイマー病やパーキンソン病などの根本的な治療薬がない疾患に対し、発症リスクを事前に調べる検査キットを開発しており、「発症リスクを知ることで、人々は運動療法や食事の改善といった予防行動を取るようになります」と予防医療の重要性を語る。
早期に発症リスクを把握できれば、症状が出る前から治療を始めることが可能だ。超高齢化社会に突入している日本で、篠原代表は「発症前に病気を予防することで健康的に長生きできる」と考えている。「病院に通う機会が減れば治療費や薬代を抑えられ、社会保障費の削減にもつながります」といい、医療費削減で余った資金を子育て支援など他分野に活用してほしいと期待している。
病気を予防するのは人間だけではない。日本バイオテクノファーマでは、予防医療に活用できる動物用医療機器の開発にも注力している。篠原代表は「犬の主な死因はがんと心臓病で、病気が発覚した時点で手遅れであるケースが大半」と指摘する。こうした状況を受け、動物にも予防医療を施せないかと、動物用医療機器の開発に着手した。AIデジタル聴診器「WITHaPET」では、心臓疾患の一つである「MMVD:僧帽弁粘液腫様変性」の兆候を検出することに成功した。「ペットは今や家族の一員です。病気の早期発見と予防の重要性は人間と同じだと考えています」と力強く語る。
また、生活環境を整える視点から、空気清浄機「ウエリスエアー(WellisAir) 」を開発した。フィルターを使用せず、イオン式空気清浄機で使われているOHラジカル(ヒドロキシラジカル)で空気中のウイルスを除去し、室内の空気をきれいに保つものだ。「空気清浄機で室内の空気を清潔に保つことで、ウイルス感染を予防できます。特に在宅勤務が増加している今、家庭での対策も重要です」と強調する。
また、先行バイオ医薬品とほぼ同等の効果と安全性が確認された薬剤「バイオシミラー」と、バイオシミラーよりも高い効果を持つ改良型薬剤「バイオベター」の開発を行っている。ジェネリック医薬品のようにレシピが存在するわけではなく、一から開発する必要があるが、篠原代表は「バイオ医薬品は高額で、抗がん剤やリウマチ薬のように保険適用でも窓口支払いは高額で、患者の経済的負担は大きい」とその意義を語る。バイオシミラーは、先発品の価格の約7割で提供でき、場合によってはさらに安価にすることが可能だという。
篠原代表は今後、バイオベターの開発に重点を置く考えだが、「バイオベターは日本では新薬として扱われる可能性があるため、価格設定に課題が残ります。しかし、価格設定の自由度が高いとも言えます」と語り、先発バイオ医薬品と同等の効能を持ち、副作用の軽減した薬剤を手頃な価格で提供することを目指している。
篠原代表は「日本の国民皆保険で一律だが、地域による医療アクセスの格差が存在する」と懸念する。特に地方では病院まで数時間かかり、緊急時には都市部で助かる命が救えない場合もある。地域格差を解消するため、一般社団法人と協働し、「バーチャルクリニック」を開発中だ。篠原代表は「地方患者が専門医にオンラインでアクセスでき、必要に応じて医師が出向くシステムです」と説明する。遠隔聴診器の開発やAIの活用により、医療の壁を取り払い、格差のない医療サービスを提供することを目指している。
篠原代表が予防医療や新薬開発に力を入れる根底には「人を助けたい」との思いがある。学生時代に演劇や音楽に取り組み、人々の幸せを生み出すことに興味を抱いたという。人々の幸せを具体的に実現できる場として、篠原代表は製薬業界を選んだ。「健康であればこそ、人を助け、支え合うことができます。微力ながら誰かの役に立つことを今後も続けていきたい」と力を込める。