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万葉建設株式会社 代表取締役

佐々木俊一

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SHUNICHI SASAKI

1969年、千葉県出身。大手ゼネコンから父の経営する工務店を経て、2005年、万葉建設株式会社を設立。ワークライフバランスを充実させる仕組みづくりや、資格取得支援制度を設けるなど「社員第一」を経営理念に掲げて事業を展開。ボランティア活動にも積極的に貢献。

 2024年に20周年を迎えた万葉建設株式会社は、八千代市を拠点に新築・注文住宅の施工など個人の顧客向け住宅建設をはじめ、土木造成工事や事業建設・公共工事を手掛けてきた。

 「人のために何ができるか」、その一点だけを考えて経営を続けてきたという佐々木氏は、「お客様のために正しく良いものを作ることに関しては弊社は自信があり、『顧客満足』を達成できると思います。ただ、お客様に良いものをつくるにしても、従業員さんたちが苦しみながらつくるのか、お客様と一緒に喜び楽しみながらつくるのか。結果できるものが同じだとするなら楽しみながらつくって喜ばれた方が絶対良いはずです。それに会社が従業員さんたちが喜ぶことをすれば、結果お客様にも良い仕事をしてくれます」と語る。

 同社では、従業員の働きやすい環境づくりに熱心に取り組む。残業が常態化している建設業界にも関わらず、同社では17時30分を過ぎると、会社のオフィスから人がいなくなる。「それでも、ときに本当に忙しいときや、お客様に要望されてこの書類を今日中に仕上げないといけないときもあるのは事実です。ただ日頃は『定時には帰りなさい』という会社方針で、『自分自身や家族のために家に帰って過ごしてください』と言い続けています」

 住宅手当は持ち家、実家、賃貸関係なく一律支給。さらに社員のスキルアップのための資格取得支援制度を設け、100万円を超える高額な受講料もバックアップをする。佐々木氏自身、一級建築士、一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士など資格を多数資格を取得してきた経験から、資格の価値を認識する。

 転職者が多い同社で従業員アンケートを取ると、「残業時間が前職より30時間減った」「すごく働きやすくなった」という声が上がり、この10年は退職者はほぼいないという。建設業界で厳しい労働環境に身を置いてきた経験がある従業員が多いからこそ、この環境の良さが分かるのだろう。

 工務店をしていた父の影響で建築の仕事を志し、ゼネコン企業に就職した佐々木氏。「新人の頃は何でも吸収したくて、『教えてください』と職人さんにアピールしていました。当時付けていた小さな手帳には、その日覚えたことや工具の名前など、今見ると笑っちゃうようなことがいっぱい書いてあるんです。その手帳がたくさんあって、今でも持っています」。学ぶことの多い充実した日々を重ねて成長し、ずっとゼネコンで働くつもりだった。しかし「地元に帰って仕事を手伝ってくれ」という、病気になった父の頼みに応えて、退職して帰郷した。

 10年父の会社を支え、平社員から専務取締役まで昇進した。しかし、職人や取引先に今月支払う代金に手を付けてしまう父の経営のやり方を見てたもとを分かち、万葉建設を創業。会社と会社に関わる人の繁栄を願い、「1万枚の笑顔の葉」を創造したいと願いを込めて社名を付けた。

 それでも創業してからの10年間は、苦労の連続だったという。全国規模のハウスメーカーや地元で根付いてきた建築会社がある中で、苦戦を強いられた。何とか認知をしてもらいたいと佐々木氏自身張りつめて仕事をし、従業員にもハッパを掛け続けた。「当時は従業員が入っては辞めて、ということが続きました。当時は、今大切にしている『ひとづくり』という言葉から外れてしまう会社だったと思います」。

 その経験を経て、従業員の働きやすい環境こそ一番に考えるようになった。「従業員たちを笑わせて喜ばせることを考えてそれをやり続けてみました。そうしたら従業員も辞めないようになり、お客様にも喜ばれる仕事ができて、他の会社に負けないと分かったのです。従業員を一番大切にすることに会社を振り切りました」

 創業から20年、成長を続けてきた万葉建設。会社単体では毎期130%の売上を維持してきた。「現在25人の従業員がいて、彼らが苦しくならないように仕事ができる目標に設定しています。今より仕事を増やして、たくさん人を増やしたら会社として大切にしていることが薄まり、私の思いが従業員に届かなくなってしまいます。ですから、このまま着実な成長を続けていきたいと思っています」と振り返る。

 そうして2024年5月期では売上高23億円、経常利益2億円まで伸長した。あと5年で千葉県内上位に入る、売上高50億円の建設会社への成長を視野に入れる。M&Aも積極的に行い、グループ9社合計で100億円に乗せる計画だ。これは佐々木氏の創業時の夢でもあるという。「ただ一番大事なことは従業員に苦労させないことです。おいしいもうけ話がきてちょっと背伸びをしたら受けたら、従業員さんたちが苦しい仕事をすることになってしまいます。うちにできることをやり続けて、一歩ずつ階段を上るようにしていく。関わる方全てが笑顔になれるように仕事に取り組んでいきます」。建設業界で万葉建設が体現する、人を大切にする仕事に今後も注目したい。

 同社は福祉施設の建設に大きな強みを持ち、その普及にも注力する。「高齢者や障がいをお持ちの方や子供。そんな社会的弱者とされる人のために力を尽くし、弊社にできることは何でも協力していきたい」と、建物を建てるだけではなく、地主との交渉や人材募集、運営面のアドバイスなどトータルサポートを行ってきた。

 「人が大好きで、人のことが気にかかるんです。私、無駄に丈夫で風邪もひかないですし、そんな元気な人間は、困っている方々のために力を使うべきだと思います」と言う佐々木氏の下には多くの人が訪れ、建設関係のことだけではなく多岐にわたる相談を持ちかける。

 建設業界では、長時間労働など厳しい環境が続いてきたため、若い世代の業界離れを招いてきた。万葉建設のように若手の幸福を考え、思いやりを注げば、そこから建設業界の未来が開けるのだろう。