エコノミスト未来賞

インプラント治療最前線

日本にインプラント治療が導入されてから約30年。日本橋インプラントセンターの玉木仁所長は、インプラント専門医として黎明期から治療の最前線に立ち続けてきた。人生100年時代といわれる高齢化社会で、玉木所長は「健康寿命を伸ばすために、予防歯科とインプラントは車の両輪だ」と語る。インプラント治療一筋の玉木所長に、その可能性と未来を聞いた。

寝る間を惜しんで勉強

2018年に厚生労働省が発表した医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況によると、全国の歯科診療所約35%に当たる約2万4000施設がインプラント治療を実施し、1カ月間の手術件数は約2万8000件にも上る。歯科業界は医院数の増加や少子化の影響で過当競争が続き、生き残りをかけて、インプラントや審美、矯正など自由診療の科目に力を入れる歯科医院も増えている。

だが、インプラント治療には、長年の経験と確かな技術が必要で、インプラント専門医として、玉木所長は「インプラントで信頼できる先生というのは非常に限られています。そもそも外科の知識もなく歯科技術の低い歯科医師がインプラント治療に手を出し、トラブルが生じ、患者様の体に対する重大な事故に発展しているケースもあります」と指摘する

玉木所長は約30年前、日本ではまだインプラント治療が行われていなかったころ、先輩医師に勧められて、欧米の学会でインプラント治療に出会った。その時玉木所長は「『素晴らしい治療がある』と感動し、帰国後寝る間を惜しんでインプラントの勉強に専念しました」と振り返る。

高齢化社会での重要性

そんなインプラント治療の素晴らしさを信じて、インプラント専門医としてこれまで1万本以上の治療を行った玉木所長の元へは、他の歯科医院で不本意な治療を受けたという患者が助けを求めてやってくるという。「今後、高齢化がさらに進む中でインプラント治療の重要性はますます高まります。多くの患者様が安心で安全なインプラント治療を受けられるようになるためにも、歯科医師の倫理観の向上は欠かせません」と危機感を募らせる。歯科医師のレベルを向上すべく、歯科オペを見学したいという歯科医師に積極的に機会を設けたり、歯科医師自体の意識界改革を促す強会を開催するなど、知識・技術の指導、及び啓蒙活動に日々取り組んでいる。

一方、一般市民向けには、高齢化社会の進行に向けて玉木所長は「健康寿命を伸ばし、幸せに生きていくためには、まず口腔環境を整えることが重要」と予防歯科の重要性を語る。「まず第一に健康は口に入るもので成り立ちます。そして、予防歯科とインプラントは車の両輪のような関係。定期的な検診と予防を行い、万が一不幸にも歯が欠損してしまった場合はインプラントも候補の一つである事。そしてどの治療が安心で安全な治療なのか、どの歯科医に治療してもらうのが良いのかを自分で判断できるようにならなければなりません。自分の健康は自分で守れるように知識を身に付けておくことが大切なんです」と力説する。

患者に真摯に向き合う

玉木所長は歯科医院を取り巻く環境について、「歯科医院に対する経営セミナーの中には分院を多く作り、利益を出すことを勧めているものもありますが、これは歯科医院の売り上げだけを上げるセミナーで、患者に対する治療の質が全く考慮されていない。分院を増やすこと自体は悪いことではないが、患者のためにも治療の質を高めてもらいたい」と訴える。

患者のために診療の質を落とさないために、常に自ら治療に当たっている玉木所長のモットーは「一人ひとりの患者に真摯に向き合うこと」だ。そのため、患者とのコミュニケーションを重視し、患者の言葉に真摯に耳を傾け心をほぐすためのユーモア、冗談も忘れない。「患者さんは皆さん心の中に困り事、不安事を抱えて来院されます。その全てを伝えてもらえるように、言いやすい雰囲気にすることがとても大切だと考えています」と話す。いくつもの歯科医院を渡り歩き、どうしても歯科治療への苦手意識がぬぐえなかったという60代70代の女性患者が、玉木所長に出会い、「歯科医院に行くのが初めて楽しみになりました」と笑顔で話したことも多く経験したという。

こうした真摯な姿勢は、スタッフにも向けられている。比較的離職率が高い歯科業界で、玉木所長の歯科医院では10年以上在職のスタッフが多い。また一旦離職しても戻ってくるスタッフもいたと言う。スタッフに有給休暇の100%消化を勧め、事あるごとにワインやジュース、ちゃんこ鍋のセットなどをスタッフにプレゼントしているという。「日ごろの感謝のしるしです。伝わっていると嬉しいですね」と笑顔を見せた。こうしたスタッフと共に玉木所長のインプラント一筋の道は続いていくのだろう。

日本橋インプラントセンター

理事長

玉木 仁

1960年生まれ。1982年に新潟大学教育学部卒業後、方向転換して歯科を志し、歯学部に入学。1993年に新潟大学歯学部卒業。2001年にインプラント専門施設である日本橋インプラントセンターを設立しインプラント業界では確固たる地位を確立している。2010年に東京医科歯科大学歯学博士号を取得。現在に至る。

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