エコノミスト未来賞

すべては子どものために
小児医療にホスピタリティを

少子高齢化が進む中、医療負担が大きな問題となっているが、小児医療では医師の地域偏在などの課題が指摘されている。奈良県生駒市で小児医療に取り組んできた「たけつな小児科クリニック」の竹綱庸仁院長は、新型コロナウイルス感染拡大に対しても、いち早くPCR検査やオンライン診療を実施してきた。「すべては子どもたちのために」と懸命に取り組んでいる竹綱院長に小児医療への思いを聞いた。

幼いころから夢みた小児科医

大切な子どもの命を預かる小児科医は、内科や呼吸器、消化器などさまざまな分野にまたがる総合医療的な側面があり、診察にも高度な技術が必要で、他科に比べても厳しいとされ、特に地方で不足しているという。厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会」(2019年)で、小児科の医師が地域ごとに偏在している指標が提示され、小児科の3次医療圏別では、医師偏在指標の全国平均は104·9だったが、最高は鳥取県の173·8で、最低は茨城県で78·3と、2·2倍の開きがあるなど、地域ごとの差が激しくなっている。

大阪市で小児科の開業医をしていた祖父を持つ竹綱院長は、幼いころから医師の仕事に親しんでいたため、幼稚園でも将来の夢を「小児科医になりたい」と書いていたという。大学病院で小児科医として勤務した後、生駒市に戻り2次医療機関での小児科の立ち上げを担当した。だが、医院経営に携わることのできない立場であったため、機器を迅速に導入することや、夜に病変することが多い小児科の夜間診療を辞めるなど、自身が思う小児医療を提供できないと感じ、スピード感を持って患者のために医療を届けたい、と2017年に開業した。

歯がゆい思いや不安、それでもできることを考えた

開院当初から血液・脳波・レントゲンなど各種検査機器など、救急にも対応できる設備を導入した。「できない理由を探すより、できることを考えて実行していく」を掲げ、新しいことや他のクリニックでは敬遠することにも積極的に取り組んできた。

そして2020年、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった。「感染拡大当初、検査ができない状況があって、歯がゆい思いをした。風評被害で診療離れが出るなどの不安もあり、医師会の会議でやりたいという意思表示をしたら、『できないよね』という反応があった。小児科なので、新型インフルエンザなどの感染症の経験もあったので、絶対にやらなければならない事業だと思った」と8月にPCR検査の機器を導入した。

竹綱院長は昨年8月、妊婦がコロナに感染して入院先が見つからず、医師不在のまま出産して新生児が亡くなったことに、「大きなショックを受けた。自分がすべての人の診察に行けるわけではないので、自分が院にいてもできることがあるのでは」とオンライン診療を導入した。「それまでは小児科ではオンライン診療は難しいと思っていたが、初診で大人の方もいらっしゃって、顔を見て患者さんが安心してくれた。慢性疾患や発達が遅い方などは、診療時間ではお話しができなかったりするので、時間外にゆっくり診療することができる」と手応えを語る。

また、緊急事態宣言で施設に通えなくなった子どもたちのため、言語聴覚士の専門的サポートを1対1で提供する言語発達遅延のデイサービスも開始。2019年から実施している、共働きや介護のために病気の子どもの自宅療養が困難な人の子どもを預かる病児保育のサービスと併せて、コロナで困難に直面した子どもたちの受け皿となっている。「コロナになってからの方が考えることが多くなった。病気などで悩んでいる子や、コロナで行くところがない人を助けられれば」と明かす。

大切にするホスピタリティ、最後は一小児科医として

子どもたちのためにさまざまな取り組みを続ける竹綱院長が大事にしているのは、患者への接し方と言い、「特に『本物であること』、『ホスピタリティ』を大切にしている」と話す。クリニック開院前には、スタッフと共に、子どもの職業体験テーマパーク「キッザニア」で研修を行った。「ホスピタリティは対等の関係をつくることが大事。キッザニアでは子どもを大人のように扱う。『医者の三種の神器はメスと薬草と言葉』というが、言葉が患者に安心を与えるツールなので、それを学んでほしかった」という。

デイサービスや病児保育は、完全個室、一対一の対応で、「ディズニーランドを超えるホスピタリティを目指す」という。竹綱院長は「一流ブランドがなぜ売れるのか。それは、満足感という付加価値がつき、所有するときに販売する人のホスピタリティが高いから、必然と質の高い方を選択する。経営的にはコストパフォーマンスが悪くても、患者さんが必要なタイミングで『たけつな』に来てくれる。そして、リピーターになってくれている」と経営的にも成功していると話す。

病院経営的な視点から、コロナ後の医療について、竹綱院長は危惧している。「いまはコロナによる診療報酬の加算などがあるが、コロナが終わると閉院するところも増えてくる可能性がある。ノウハウを共有させていただいて、支援をしたい」と病院経営のコンサルティングにも乗り出す予定だ。

竹綱院長は「本当に小児科の診療が好き。先日、かかりつけのお子さんから『のぶひとくん』と呼んでもらって本当にうれしかった。注射をしたりする病院は子どもにとって嫌なところなのに、僕の背中を見てくれる子がいると思うと頑張れる。その中から、小児科医になろうという子どもが出てくるのが夢。いまは経営も大事にしていますが、最後は一小児科医として診療を続けられればと思います」と語り、「同じ方向を向いて、常にたけつなを支えてくれているスタッフと家族、そして、最愛の娘に感謝の気持ちしかありません」と笑顔を見せた。

たけつな小児科クリニック

院長

竹綱 庸仁

2006年愛知医科大学病院小児科入局。2013年生駒市の2次医療機関の小児科の立ち上げに携わり、感染症や食物アレルギーに気管支ぜんそくなどの一般的な小児科診療と、てんかんや小児頭痛などの専門的な検査と治療を行う。2017年「たけつな小児科クリニック」開院。2019年に「病児保育室バンビ」をスタートさせ、2021年には言語発達遅延のデイサービスやオンライン診療も開始。

http://www.taketsuna-kojika.com/

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