エコノミスト未来賞

最高峰品質の生地で世界的ベンチャーに

LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)やKERING(ケリング)が展開するラグジュアリーブランドや国内外の高級ブランドに生地を販売し、パリ・ミラノ・東京のコレクションで紹介されるファッションに最先端の素材を製造・デザイン・輸出を行うスタートアップ企業「BVLAK(ブラック)」。最高峰の品質の生地を世界で展開する正面雄一郎代表の挑戦に迫る。

商品が持つ「インパクト」で顧客を引きつける

正面代表は、31歳で音楽業界から繊維業界に転身、英語力を生かして海外セールス部署の設立に加わり、ラグジュアリーブランドとの直接取引に成功した。中間業者が入らないビジネスモデルが業界で注目され、老舗メーカー3社で務めた後、2016年に起業した。「BVLAK」は、高級ファッションで最も重要な色である「黒=BLACK(ブラック)」のBとLの間に「VARIANT(変異)」の「V」を入れ、「必要であれば変化を起こし続ける」という意味を込めたという。

ビジネスの成功ノウハウの一つに「文化や人種、宗教の壁を超える商品開発」を挙げる。伝統が重んじられる欧州の高級ファッション企業(メゾン)の世界では、起業して間もない業者が取引するのはほぼ不可能だが、商品そのものに強いインパクトがあれば話は別で、会社の規模や社歴は二の次で、何より「商品」が重視されるという。イタリアの大手ブランドは、BVLAKとの取引開始後に、「なぜたった4人の社歴が浅い会社がこんな物を開発できるのか」と驚くほどだった。 

高級ファッションブランドが飛びつく魅力的な商品を、他社の何倍ものスピードで生み出せる開発のポイントは、「比較対象を持たず、白紙の状態から作りだすこと」だと語る。社内では「VISIONARY(ビジョナリー=先見の明)」と呼ばれ、トレンドを先読みして、他社が考えつかないアイデアを商品に落とし込む作業だ。

開発の根底にあるのは「Let the product speaks for itself(商品(生地)そのものが顧客に語りかける」という哲学だという。営業担当者が商品を語るのではなく、商品が持つ「インパクト」が顧客を引きつけるということで、その背景には、絶対的信頼を置く協力工場や職人、繊維商社の存在が大きい。サクセスストーリーを分かち合い、家族にも勝る関係性で、チームとして機能しているという。特に、 新規開発を行う際に真っ先に相談する和歌山の老舗「大営メリヤス」は、職人の技術と感性を最大限に生かし、パリやミラノのコレクションで使われるさまざまな生地を共同開発している。

欧州市場のビジネスから始まったBVLAKでは、早くからSDGs(持続可能な開発目標)を意識して、環境に配慮したリサイクル素材やオーガニック素材を積極的に使用しており、有機栽培(飼育)オーガニック原料を使用し、環境と社会に配慮して加工・流通されたことを示す「GOTS(オーガニックテキスタイル世界基準)」や正しくリサイクルが実施された原料であること証明する「GRS(国際リサイクル基準)」 の認証を受けている。先進技術を持つ大手化学メーカーとの原料の開発にも取り組むなど、さまざま企業と連携し、新たなニーズの創出に奮闘している。

海外へはばたく若い世代の道しるべに

同社の企業理念である「beyond imagination, beyond expectation(想像以上、期待以上)」は、「想像や期待を超えることが新しいムーブメントを起こす可能性につながる」という意味が込められている。正面代表は「まず第一に、社員の『QOL(クオリティー・オブ ライフ=生活の質)』を充実させ、仕事に打ち込める環境を作っていきたい」と力を込める。

どの業界からも、異なる世代からも「カッコ良い」と思われる企業像を作ることが目標だ。正面代表自らが全社員と隔週で「LC (Light Communication) -15 」と呼ばれる15分の短い会議を行い、ストレス度やタスクの達成度、問題点などを共有し、方向性の調整を行っている。また、社員は「WFH(WORK FROM HOME=ウーファー)」と呼ばれるリモートワークを週1回行っている。感染症の拡大や災害に備え、場所を問わず仕事ができる環境を構築し、コミュニケーションの質の向上を模索している。

IT業界と比べ、スタートアップが少ない繊維業界で、グローバル市場に通用する商品やノウハウを持ち、「斬新」を創造していくBVLAK。正面代表は「海外で活躍を希望する若い世代の道しるべになりたい」と語り、キャリアは問わず、幅広い人材開拓を行い、さまざまな企業を巻き込んで、企業規模の拡大を目指している。

株式会社BVLAK

代表取締役

正面 雄一郎

1976年、大阪府出身。12~23歳を英国で過ごし、現地の大学で学位(B.A)を取得し卒業、日本へ帰国後はプロミュージシャンとして活動するが、31歳で繊維業界に転身、複数の老舗生地メーカーで、ファッション衣料用の高級生地の企画、製造、輸出販売に携わる。2016年、株式会社 BVLAK (ブラック) を設立。

https://bvlak.com/

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