エコノミスト未来賞2024

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積み上げた経験を家業に活かす時

小出社長が経営者として大切にしていることは「仕事を楽しくすること」と「自分を見つめ直すこと」だ。失敗を「恐れる」のではなく、一歩成長するいい機会になったと「楽しむ」ようになれば自然と結果が生まれるという。「それができる人は『自分を見つめ直すこと』で多くの人と協力できるので、より大きな成果が出せるのです」と語る様子は前向きで明るい。しかし、そんな越後天然ガスも一時期は危機に直面し、改革に注力してきた経緯がある。

90年の歴史を持つ同社の四代目社長として従業員を牽引する小出社長は当初、家業を継ぐ気は全くなかったと打ち明ける。加えて「東京の大学を卒業した後、就職先は経験を積んでいるように見せるため千葉県のガス会社を選びました。経理、企画、営業などに携わることができ、後に活きる貴重な経験になりました」と振り返る。その間、事業継承の説得を再三受け、ついに社会人10年目で新潟に戻ることとなった。帰郷し同社に入社した小出社長は社内の実情を目の当たりにし、衝撃を受けた。

多角的な改革の始まり

入社した際の会社について小出社長は「都市ガスの製造、供給、販売を担う地域の独占企業だったため、自分たちは一生安泰だという淀んだ空気が会社全体を覆っていました。そのため、自ら積極的にアイデアを出す社員も皆無だったのです」と話す。一方、その当時はオール電化の波が押し寄せ、数年後には都市ガスの完全自由化が確実な情勢となっていたのである。会社の存続危機と判断した小出社長は、「サステナブルな会社にする」ことを目標に改革に着手。「ガスの自由化で大手や外資が来ようと、50年後、100年後も持続可能な会社にしなければならない。そのために、社内の雰囲気の改善、協力体制や信頼関係の構築、自律した社員の育成などに取り組んだ上で、地域の活性化にも手を伸ばしていこうと考えていました」とし、自ら行動することで従業員に真剣な姿勢を示した。

まず、社外に対してサステナブル経営を明言すると、さまざまな協力者が訪ねてくるようになり、中には従業員が驚くような著名人もいたという。若手社員を著名人たちに紹介することで士気が上がり、社内に活気が出始める。そして、小出社長自ら全社員に適切に接していくと、管理職の意識が変わり、上司が部下をしっかり理解する文化が根付いていった。

さらに、都市ガスを扱う会社には女性の視点が重要であるにもかかわらず、これまで女性社員が非常に少なかったことから積極的な採用を展開。「『ガス展』や『キッズフェスティバル』、『マルシェ』などのイベントや『クッキングスクール』などに女性社員のアイデアが活かされるようになり、子育て世代からも好評を得ています」という。このような雰囲気が定着してくると、黙っていても社員からさまざまな案が出るようになった。例えば、「ガス展」はコロナ禍により都市ガス会社のほとんどが中止したことがあった。しかし、越後天然ガスはこうした状況では地域住民の楽しみが失われると考え、開催を実施。小出社長は事前に自ら感染症の専門家4人ほどを訪ね、感染防止法を学び、万全に対策した上でイベントに臨んだ。結果、地域の人々が多く集まり、「ガス展」は賑わいを見せた。

アイデアと人材育成で未来を紡ぐ

地域に根ざすガス会社として、小出社長は会社と地域の関係はウィンウィンである必要があるとし、「『ガス展』は、年に一度のセールだと捉えている会社も少なくありません。しかし、実際お客様にとっては、イベントを楽しみつつ欲しいものを安く買える点がメリット。私たちにとっては地域の皆様に喜んでいただき、ファンになっていただけるメリットがあります。この関係こそ大事なのです」と話す。今までの努力が実を結び、地域の人々たちから、越後天然ガスはさまざまな面白いことに取り組んでいると評価されるようになった。

また、変化に対応できることも常に意識しているという。自らアイデアを出していかなければサステナブル経営は難しいからだ。環境問題への取り組みも変化への対応を常に考慮しており、「現在、新潟市秋葉区で、熱と電気を相互共有し、省エネを図るシステム作りを推進しています。さらに、省エネに役立つ先進的なモデルハウスを作り、皆さんに見ていただく取り組みも行っています」と紹介。今後の課題については、自分で考え、判断し、行動できる人材をどれだけ育てられるかにかかっていると明言する。サステナブルな会社を目指し、地域や人々とのつながりを大事にする小出社長。「親しみやすいガス会社」として地域活性化に貢献する姿は今後も輝き続けるだろう。

Profile

越後天然ガス株式会社

https://www.echiten-gas.co.jp/

代表取締役社長

小出 薫

1974年生まれ、新潟県出身。98年京葉ガス入社。経理・企画・営業を経て、2008年越後天然ガス入社。供給部・専務取締役などを経て、12年代表取締役社長に就任。越後プロパン代表取締役社長、新津法人会会長も務める。

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