エコノミスト未来賞2024

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講座で「習う」安心感

阪本氏によると建設業界では従来、新入社員はまず現場入りをして業務を学んでいたという。人材育成は「見て学ばせる」方法を主とする企業が多かったのだ。しかし、同社は伝統的な固定観念を打破し、アカデミーと呼ばれる制度を導入。内勤を含めた全部署の体験と先輩社員による講座の受講を1年かけて行わせる。講座の時間は毎月設けられており、現場に配属される社員であれば、5年目までの基礎カリキュラムが用意されている。

講座の中には、施工図の見方や工程表の作成方法、安全管理のほかに、同社の理念や目標を含む「SANYOマインド」を身につけるものもある。講師は主任クラス以上の中堅社員が務めており、教える側も講座内容について理解を深めることが欠かせない。つまりアカデミーを通じて、生徒側の新入社員と講師を務める社員の双方の成長を促すことができるのだ。同氏は将来、アカデミーを中堅層、管理職、経営層にまで広げる見込みで、「この制度を始めてから新入社員だけでなく、教える中堅社員も伸びているので喜ばしいです」と笑顔を見せる。

成長と豊かな人生を目指す制度設計

人材教育だけでなく評価制度もユニークだ。それが「SANYOネバーエンディングストーリー」と呼ばれる制度。「みんなで心豊かな人生を送ろう」をテーマとしており、社員個々の成長を促すことを目的としている。まず社員はそれぞれ自分の幸せのための「物語」を描き、目標項目4つを設定する。1点目は会社の業績に対する貢献、2点目は未知へのチャレンジ、3点目は社内での人材育成、そして4点目は自己成長だ。次に社員はこの4つの項目に沿って具体的な目標を設定し、1年間取り組んでいく。同社総務部長の山本貴光氏は同制度について「目標を立て、なりたい自分を目指すにはセルフマネジメントが必要になりますから、業務以外の面でも成長してもらえるものになっています」と語る。また、評価方法についても一般的な企業と異なる。社員一人に対する評価者を合計6人とし、3人は会社が指名し、他の3人は本人が指名できる。多角的な評価を次に活かしながら、さらなる成長につなげていくのだ。

事業の基盤は人と人のつながり

阪本氏は同社の積み上げてきた実績について「まず誇れるのは、人のつながりと当社の信頼を支えてくれている社員です。当社の社員がお客様のご要望に応えてコツコツ対応してきたことが高い満足度につながり、『次もお願いしたい』という評価につながっているのだと思います」と話す。技術に裏付けられた施工力だけではなく、顧客とのつながりを重視してきた点は特徴的だ。「人とのつながり」は同社を語る上でのキーワードで、仕事の受注においても紹介によるケースが多いという。

一般的に地方の建設会社であれば、仕事の半数ほどを公共工事が占めるものの、同社では9割が民間の顧客からの発注だ。また、阪本氏はコロナ禍においても人のつながりを実感したエピソードがあるとした上で、「他社では新型コロナウイルス感染症の拡大により現場が止まったという話を多く聞きました。しかし当社では中止も延期もなく発注をいただき、お客様に非常に感謝しています。お客様とのつながりは言うまでもなく、同業他社とは『ともだち作戦』として関係を築いていくことを大切にしています」と話す。最後に今後の展望として「建設会社らしくない建設会社として、働くことが楽しい施工管理の技術者集団になり、社員全員の心を豊かにしていきたい」と力強く回答した。

Profile

三陽建設株式会社

https://sanyoukensetsu.co.jp/

代表取締役社長

阪本 仁彦

1969年三重県伊賀市生まれ。2005年三陽建設本社建築部課長、09年本社営業部課長を経て、12年専務取締役に就任。18年、5代目として代表取締役に就任。

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