中小企業の課題を解決
ラクスル 永見世央 2025.04.07
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)
中小企業の課題を解決
── 足元の事業の状況は。
永見 当社は2009年に創業して最初に始めた事業が印刷のeコマース(電子商取引)の事業です。インターネット上で法人および個人のお客様から印刷物の注文を受けて、自分たちでは印刷工場を持たずに提携する100社以上の印刷会社で印刷し、お客様に印刷物を提供しています。いわば、印刷の需要と供給をマッチングする仕組みの事業です。現在は扱う商材を増やしたり、他のサービスを拡大したりしています。
── 事業拡大の方向性は。
永見 中小企業に対して、テクノロジーをベースに、多様なサービスを多様な領域で提供し、経営課題を解決していきます。この方針は、23年8月に代表に就任した際に示しました。サービスは会社名でいうと、圧倒的なコアは印刷事業の「ラクスル」ですが、テレビCMやデジタルマーケティングを提供する「ノバセル」、物流サービスの「ハコベル」、そしてソフトウエアやITデバイスのIDの管理などを一元的に提供する「ジョーシス」があります。これらのサービスを中小企業のお客様に提供し、彼らの生産性やコストを改善します。日本の企業の99%は中小企業なので、中小企業の生産性や収益性の改善は、日本の国力向上に貢献すると思ってやっています。
── 業績は好調のようです。
永見 今期(25年7月期)は売上高が610億〜630億円、売上総利益が210億〜220億円、EBITDA(利払い前、税引き前、減価償却前利益)は50億〜60億円を見込んでいます。そしてEBITDAは27年7月期に100億円達成を目指しています。
印刷業界の市場規模自体は伸びていません。しかしインターネット上で発注するオンラインの市場は業界全体のまだ数%しかなく、成長の余地があります。昔からある大きな市場をデジタル化していくことが一番の成長ドライバーになっています。
── 近年は、M&A(企業の合併・買収)にも積極的です。
永見 もう一つの成長のドライバーがM&Aです。私が代表になってから連続的にM&Aを実施し、昨年度で6社、今年度はすでに2社、当社グループに入っていただいています。当社の隣接領域で、我々がシナジーを提供できる企業がグループに加わることで、成長がさらに加速しています。M&Aにより、加わった企業が一緒にどれだけ伸びるかという発想でやっています。顧客基盤や機能の共有化といったシナジーが生まれることで、加わった企業も利益成長を続けています。
M&Aについては、海外の投資家からも評価を受けています。まず日本は会社の数が多すぎるので合従連衡が必要だということ、次に日本は借入金利が低いためM&Aがしやすい。そしてM&Aをするときのバリュエーションが欧米ほど高くない。M&Aをやらない理由はないと思っています。
金融事業に参入
── 今後の展望について。
永見 中小企業向けの総合的なプラットフォーマーとしてエコシステム(経済的な生態系)をつくりたいと思います。BtoC(一般消費者向け)のプラットフォーマーはすでに楽天などがあり、例えば、楽天はeコマースのマーケットプレイス(市場)から始めて、取引が発生するのでシナジーがある金融に展開している。そしてプラットフォームを継続的に使い続けてもらうために、コンテンツなどを提供する。これらを同じIDで同じプラットフォーム上で提供する。我々は同じことを、中小企業向けのBtoB(事業者向け)でやりたいと思っています。
印刷のeコマースから始めて、eコマースで培ったマーケティング手法を提供します。そして親和性のある金融に展開する。さらにプラットフォームを使い続けていただくために、連続性のあるサービスとして、毎日使う業務用ソフトウエアなどを提供しようと思っています。そのため現在、金融事業とソフトウエア事業の立ち上げを準備しています。
── 金融事業の展開は。
永見 外部のパートナーと提携して、中小企業向けのデジタルバンキングのサービスと、印刷会社やサプライヤー向けにファイナンス事業の展開を準備しています。最初は中小企業向けに、安価かつ簡単に銀行振り込みや送金ができるサービスを始めようと思っています。現在システムの開発や銀行代理業の免許の取得を進めており、年内にサービス開始を予定しています。
── EBITDA100億円を目標に掲げる狙いは。
永見 利益が100億円あると、リスクを取って次の大きな投資ができるフェーズだと思います。例えばM&Aの規模や数を増やすことができます。まずは100億円の利益を達成することで、次のチャレンジのスタートラインに立てると思っています。
(構成=村田晋一郎・編集部)
横顔
Q 30代はどんなビジネスパーソンでしたか
A 30代の最初の3年は投資ファンドにいて、その後、当社に参画しました。20代後半に米国へ留学した際に、スタートアップやテクノロジー企業への人の流れを目の当たりにしたことから、テクノロジーを通して社会に貢献したいという思いを抱きました。
Q 「好きな本」は
A リチャード・ブランソンの『ヴァージン・ウェイ』です。社長就任前に読んで今の経営スタイルに影響を与えています。
Q 休日の過ごし方
A サウナに入ったり、釣りをしたりしています。
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事業内容:印刷・広告・物流などのシェアリングプラットフォームを運営
本社所在地:東京都港区
設立:2009年9月
資本金:27億9800万円(24年7月、連結)
従業員数:626人(24年7月現在)
業績(24年7月期、連結)
売上高:511億2100万円
営業利益:25億2300万円
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■人物略歴
ながみ・よう
1980年生まれ、東京都出身。東京学芸大学付属高校卒業。2004年慶応義塾大学総合政策学部卒業、みずほ証券入社。カーライル・ジャパン・エルエルシー、ディー・エヌ・エーを経て、14年4月にラクスル入社。同年10月に取締役CFOに就任。23年8月から現職。ペンシルベニア大学ウォートンスクールにてMBA取得。44歳。
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週刊エコノミスト2025年4月15日号掲載
編集長インタビュー 永見世央 ラクスル社長