海外事業を強化、利益の25%へ
明治安田生命保険 永島英器 2025.04.21
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)
海外事業を強化、利益の25%へ
── 昨年1月、ブランド名(通称社名)を「明治安田生命」から「明治安田」に変更した狙いは何ですか(正式社名は明治安田生命保険のまま変更なし)。
永島 創業から今年で144年間、保険金や給付金という経済的価値を顧客にお支払いすることで安心を提供してきました。その生命保険が大事な中核事業であるのは間違いありませんが、それだけではないことを訴えたいと思い、ブランド名を変更しました。これからは経済的価値の提供に加えて、地域、健康、絆、幸せといった社会的価値を創造することも本業という意気込みを示しました。
── 地域との連携にも力を入れていますね。
永島 2022年からは営業職員を「MYリンクコーディネーター」と称しています。「地域と個人」や「個人と個人」の絆を紡ぐ役割を担う職務と位置付けています。さらに昨年9月末現在、全国1013の自治体と連携協定を結んでいます。MYリンクコーディネーターが汗をかいて各自治体の地域課題に向かい合っています。
── 手ごたえはどうですか。
永島 自治体や一緒に取り組みをしているJクラブ(Jリーグのチーム)などの方々にアンケートを取ると、評価が高まっています。当社が30年に目指している姿、つまり、「社会的価値と経済的価値の両方を大事にしながら好循環させ、持続可能な社会に貢献する」という目標に向けて順調に進んでいると考えています。
── 25年3月期の業績はいかがですか。
永島 増収増益の見込みです。増益への貢献度合いが大きかったのは海外事業と資産運用でした。海外事業の主力、米保険会社スタンコープ・ファイナンシャル・グループの業績が好調だったことに加え、円安効果もありました。資産運用も株価指数などのボラティリティー(変動率)が高い中、成果を上げて増益につなげました。
米英で買収・投資を加速
── 最近、海外事業を強化する発表が相次ぎました。
永島 昨年から3件手がけました。一つ目は、スタンコープを通じて米損害保険大手オールステートから任意加入型団体保険事業を買収すると昨年8月に発表しました。二つ目は、英金融大手リーガル・アンド・ジェネラルの株式5%を取得した上で同社の米生保子会社を買収すると今年2月に決めました。三つ目は、英資産運用大手マン・グループとの戦略提携を同2月に発表しました。これらの一部は26年3月期決算から業績反映できると見込んでいます。
── 海外事業の目標は。
永島 27年3月期までに海外保険事業の基礎利益相当額を1000億円に拡大し、30年にはグループ保険料に占める海外保険事業の割合を35%程度、グループ基礎利益に占める割合を25%程度に拡大する目標を掲げています。海外事業の成長を取り込んで国内の顧客のためになるようなことをしたいと考えています。
── 最近、国内でもイオングループとの提携を発表しましたね。
永島 顧客接点を融合させ、価値創出を目指します。イオンの店舗をサードプレースとして活用し、健康増進や地域活性化にコミットしていきます。
── 日銀が昨年3月にマイナス金利を解除したことで、日本は「金利ある世界」に突入しました。どんな影響を感じていますか。
永島 歓迎しています。金利は社会の血液のようなものであり、正常に流れることは大事です。金利が正常化することで経済が循環し、リスクマネーも成長しようとする企業に届くことになります。当社の貯蓄系商品については、これまでは日本の金利が低かったことから、どうしてもドル建て商品に偏重していました。それがようやく円建て商品を出せるようになりました。当社は円建て、ドル建て、平準払い、一時払いの4類型をバランスよく提供できるようになり、顧客はニーズに合わせて選べるようになりました。
── 国内生保各社が保有する国内債券の含み損が拡大しているそうです。
永島 生保には「責任準備金対応債券」という会計上の区分で計上し、時価評価しないというルールがあるので、含み損はすぐに顕在化しません。そのような事情があるにせよ、これからの投資を考えると、日本国債や円建て債券の利回りが高くなることによるプラスのほうが大きいと思います。当社は外貨建て、株式、不動産などにバランスよく分散投資しているので、むしろ金利の緩やかな上昇を歓迎しています。
── 運用の見通しは。
永島 大事なことは、生保の負債は保有期間が長いという他の運用機関とは違う強みがあること。それを生かした投資が肝心だと思います。一本一本の保険に愛や思いがつのっており、最後まで責任もって支払うというスタンスです。
(構成=谷道健太・編集部)
横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか
A 20代の時に赴任した米ロサンゼルスを懐かしみながら、米国流の保険商品や職場環境を日本で実現しようとして奮闘していました。「ライフアカウントL.A.」という商品を担当しました。
Q 「好きな本」は
A 川上未映子『夏物語』(文春文庫)です。以前から川上さんのファンで、対談をしたこともあります。
Q 休日の過ごし方
A ウオーキング、Jリーグ観戦、阪神タイガースの試合観戦です。
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事業内容:生命保険業
本社所在地:東京都千代田区
創業:1881年7月
基金総額:9800億円(2024年9月30日現在)
従業員数:4万7493人(同)
業績(24年3月期、連結)
保険料等収入:3兆3432億円
基礎利益:5610億円
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■人物略歴
ながしま・ひでき
1963年東京都出身。私立桐朋高校卒業。86年東京大学法学部卒業後、明治生命保険(現明治安田生命保険)入社。2010年静岡支社長、13年企画部長、16年執行役員人事部長、17年常務執行役、21年代表執行役社長。62歳。
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週刊エコノミスト2025年4月29日・5月6日合併号掲載
編集長インタビュー 永島英器 明治安田生命保険社長