先行する介護保険をさらに進化
朝日生命保険 石島健一郎 2025.08.18
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)
先行する介護保険をさらに進化
── 2025年3月期の業績をどう評価されていますか。
石島 朝日生命保険単体でみると基礎利益(生命保険会社の本業の利益)が久々に500億円台に乗りました。昨年度は資産運用環境が良く、長年の課題だった「逆ざや」がほとんど解消に近いところまできました。利益面では良好な決算だったと考えています。営業面では子会社のなないろ生命とともにトータルで顧客数や保有契約数のボリュームを増やしていくことを目標にしていますが、おおよそ会社の計画を上回るレベルで推移しています。
── 生命保険業界の中でも介護保険に注力されています。その狙いとこれまでの成果は。
石島 20年くらい前に会社の経営が苦しくなった時、事業領域を絞り込みながら特徴を出そうと方針を切り替えたのが出発点です。その時、いわゆる「生きるための保険」を死亡保障よりもメインにしていこうという方針を出しました。
その分野では医療保険やがん保険が市場的にも当社としてもボリュームが大きいのですが、世の中の状況を見ると介護問題はどんどんシリアスになっている。しかし民間の生命保険会社がうまくソリューション(解決策)を提供できていない。当社が力を入れ始めた十数年前は開拓の余地がある市場だと思って他社さんよりも先に注力しました。
当社の介護保険の累計販売件数は100万件を超えていますが、今でも民間の介護保険の世帯加入率は20%程度にとどまるという調査もあります。商品の普及率はまだまだと評価していて、逆にまだポテンシャルがあると思います。
── 今後、民間の介護保険のさらなる普及に向けてどう手を打ちますか。
石島 介護が必要になった時にお金だけもらってもしょうがないなみたいな部分があって、受け取ったお金をどう使うかというその先が大事なんですね。そこまで含めてフォローしていかないと保険の魅力は高まらない。我々としては介護の段階に応じていらっしゃるサービス提供者さんとアライアンスを組みながら、介護が必要な方に信頼できる業者を紹介し、その業者への支払いには保険の給付金を充てていただく仕組みを作ろうと思っています。
── いつごろを目指しますか。
石島 完成形には4〜5年かかるかもしれませんが、来年度くらいにはスタートしたいなと思っています。朝日生命が介護に力を入れていることは浸透してきたので、「一緒にできないか」と言ってくださる業者さんもいらっしゃいます。
代理店経由を強化
── 乗合代理店などを通じて医療保険やがん保険を販売する子会社「なないろ生命」を21年の設立時から経営されてきました。昨年度の業績は他の大手生保子会社の同様の会社に遜色ないですね。
石島 営業職員経由で生命保険に加入される方は今だと5割強。営業職員チャンネルを少しでも増やそうとしてきたのですが、そもそも半分弱の方はそういうアプローチを望んでいない。その方々に合ったチャンネルでアプローチした方が需要を取り込めるという考えです。朝日生命社内の事業部で10年ほど代理店経由ビジネスの実績を積み上げた後になないろ生命を設立して本格的にスタートしました。営業職員が扱う保険に引きずられずに商品開発できるようになったことが大きい。
── 今年の4月に理念体系を刷新しました。ミッション(使命)が「一人ひとりの“生きる”を支え続ける」、基本理念が「まごころの奉仕」です。
石島 環境が変化する中で会社の中もいろいろ変えなければなりません。ただ、変化に対応するのも大事だけど自分たちが守るべきもの、軸みたいなものがないとただ流されてしまうという思いがありました。顧客の生活を支え続けることがミッションなのでご契約いただくことはゴールではなくスタートだという意識もあります。
── 海外事業ではベトナムに進出されています。
石島 海外事業がメインになることはないと思いますが、日本のマーケットが縮小していく部分を海外の成長を取り込むことで補完したい。アジアは保険のマーケットとしても成長の余地がある。ベトナムでは保険の販売ノウハウをコンサルティングとして提供してほしいという話があった。そこでコンサルティングをやり、現地法人を立ち上げて代理店をやるようになったところですが、最終的には保険会社をやりたいです。
── 昨年貯蓄性保険の販売を再開されました。「金利ある世界」が追い風のようです。
石島 旗を振って拡販していないのですが、想定の倍ぐらい売れている。「まとまったお金があってすぐ使わないから預けておきたい」という需要がある。もう少し貯蓄性のニーズを取り込んでいきたい。
横顔
Q これまでのピンチは
A 会社の経営が苦しかった時ですね。「何とかしよう」みたいなアドレナリンが湧きました。
Q 「好きな本」は
A 野中郁次郎さんたちによる『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』です。企業がおかしくなる時にもあてはまると思います。
Q 休日の過ごし方
A 妻と買い物に出かけることが多いです。
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事業内容:生命保険の販売・引き受け、資産運用業務、他の保険会社の業務代理
本社所在地:東京都新宿区
創業:1888年
基金の総額:2570億円
従業員数:職員4179人、営業職員1万5008人(2025年3月末)
業績:(25年3月期、グループ)
保険料等収入:4652億円
基礎利益:458億円
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■人物略歴
いしじま・けんいちろう
1963年生まれ。広島県出身。私立広島学院高校卒、一橋大学法学部卒、88年朝日生命保険入社。2017年執行役員代理店事業本部長、20年取締役常務執行役員、21年なないろ生命保険(子会社)社長を経て24年より現職。61歳。
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週刊エコノミスト2025年8月26日・9月2日合併号掲載
編集長インタビュー 石島健一郎 朝日生命保険社長