不動産情報大手、AI活用に注力

LIFULL 伊東祐司 2025.11.17

Interviewer 清水憲司(本誌編集長)

不動産情報大手、AI活用に注力

── 住宅・不動産の情報サイト「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ、以下ホームズ)」に賃貸や新築・中古物件を掲載しています。

伊東 よく比較されるのがリクルートの「SUUMO」と「アットホーム」です。当社を含めて3大ポータル(玄関)です。当社は1995年の創業、97年設立でインターネット専業に由来する開発力、エンジニアリング力が強みです。AI(人工知能)時代にも適応して新しいサービスを出すスピード感は他社に負けないと考えています。

── 掲載物件に対して入居希望者の問い合わせが発生すると掲載依頼主に課金する料金プランを導入しています。

伊東 いわゆる「問い合わせ課金」を業界で先駆けて導入したのが2011年です。少子高齢化や地方の過疎化に伴い空き物件が増えていました。すると掲載物件がどんどん増えます。当時は掲載件数に応じて課金していました。不動産会社にとっては、「100件載せたいけど予算の制約で10件しか出せない」こともありました。「全部出してもらう方法はないか」との考えから、掲載の効果に応じて対価を得る仕組みを取り入れました。

── 掲載物件が存在しない、または成約済みという「おとり物件」の排除も掲げています。

伊東 サイトを見た利用者が不動産業者を訪れると、「すみません。ちょうど昨日埋まってしまいました。でも、もっといい物件がありますよ」と誘導することがあり、ユーザーに不利益になることもあります。当社は「物件鮮度」という指標を掲げて、掲載物件がどれだけ実在するかを大事にしています。鮮度とは物件がクリーニングされた状態で世の中に発信できているかを示すものです。

── どうやって鮮度を保つのでしょうか。

伊東 日本には、不動産の賃貸や売買物件を全て網羅する「マスターデータ」がありません。それに近いデータを持っているのは不動産管理会社です。当社は、管理物件をたくさん持っている管理会社と提携して毎日空室情報をもらっているのですが、その裏側でAIが機能しています。大量のデータを学習したAIが、「こういう物件は、おとりの傾向がある」ことを識別して、「怪しい」と警報を出しているのです。当社は、約200人のエンジニアを抱えており、この1年間で月1件の頻度でAIに関するプレスリリースを出しています。これは住宅メディアとしてはトップだと認識しています。

海外減損リスクは解消

── 24年9月期に海外事業の減損(70億円)を計上しました。どのような状況だったのでしょうか。

伊東 不動産情報に関する「まとめサイト」の世界1位と2位の会社を買収しました。世界60カ国でそれぞれ展開していて、各国にポータルサイトがあり、まとめサイトはその上に乗る形でユーザーを各ポータルに誘導しようとの狙いです。

 その根底には世界中の不動産物件をデータベース化するとのビジョンがありました。株式は1口ごとに投資できるようになっていますが、その不動産版を手掛けたかったのです。不動産はマンションを買うにも大金を投資する必要があります。それを1口1万円もしくは10万円などと小口に分散してスマートフォンで気軽に買えるようにする構想でした。まとめサイトは薄い情報しか持っていないので、各国の強いポータルサイトも買収して情報の付加価値を上げてビジョンを実現する考えでした。しかし、コロナ禍もありまとめサイトが不振に陥り全体の利益率も低下した結果、減損に至りました。海外事業は非継続事業としたので追加の損失計上リスクは大幅に低減されました。

── 25年9月期を最終年度とする中期経営計画の手応えは。

伊東 国内と海外の両事業で成長を目指した“ツートップ戦略”だったのですが、海外は撤退してホームズも伸ばしきれなかったので、課題が残る中計だったと思います。ただ、足元ではホームズの成長が戻ってきました。5年前に買収した「健美家」という不動産投資のポータルサイトがあり、従来当社が手掛けていた「ホームズ不動産投資」と統合して、掲載物件数が一気に伸びました。そこに不動産投資ブームが到来していま事業が伸びていて、各事業部門間の相乗効果が出てきました。AIによる革新の機会も到来しており、当社にはポジティブな流れが来ていると感じます。

── 創業者の井上高志会長から2年前に社長を引き継ぐ時にどんなアドバイスを受けましたか。

伊東 「利他主義」という社是と常に革新するという経営理念、この二つは変えてはならないと言われました。裏を返すと、これ以外は何でも変えていいと受け止めました。

(構成=浜田健太郎・編集部)

横顔

Q これまでに最もピンチだった場面は

A 「ライフルホームズ」で初の実店舗事業を2016年に始めてその責任者でしたが、当初は来店客がほとんどいませんでした。マーケティングを工夫して黒字化し今は77店舗に増えました。

Q 「好きな本」は

A 『ザ・ビジョン』(ケン・ブランチャード著、ダイヤモンド社)です。ビジョンを掲げて組織をどうまとめて推進するのか事例豊富です。

Q 休日の過ごし方

A 3人の子どもと公園に行ったりしています。

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事業内容:不動産・住宅情報サイトの運営など

本社所在地:東京都千代田区

設立:1997年3月

資本金:97億1600万円(2024年9月現在)

従業員数:1882人(24年9月、連結)

業績(24年9月期、連結)

 売上高:344億6600万円

 営業赤字:64億4300万円

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 ■人物略歴

いとう・ゆうじ

 1982年生まれ、埼玉県立伊奈学園総合高校卒業、日本大学経済学部卒業。2006年4月LIFULL入社、15年4月執行役員を経て23年12月から現職。埼玉県出身、42歳。

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週刊エコノミスト2025年11月25日・12月2日合併号掲載

編集長インタビュー 伊東祐司 LIFULL社長