環境低負荷の電子回路基板製造法
エレファンテック代表取締役社長 清水信哉 2023.06.12電子部品の製造は大量の水使用や材料の廃棄など、意外と環境負荷が高い。その難題に挑んだ。
(聞き手=和田肇・編集部)
電子回路基板の製造に関して、金属をナノ化してインク状態にし、インクジェットで基材に印刷した後に、無電解銅めっきで金属を成長させて回路を形成する量産技術を開発しました。これまでの電子回路基板の製造は、基材に銅箔(はく)を形成した後に、露光、現像、エッチングといった非常に長い工程を経ていました。この製法は、途中で要らない保護膜や銅箔などを除去しなければならず、いわば「要らない部分を捨てる」製法です。これに対して当社の製法は、必要な部分にのみインクジェットで金属を印刷し、無電解銅めっきでその金属の部分だけ厚さを増す「足し算」の製法なので、「捨てる」部分がなく、非常に少ない資源で製造できて、CO2排出量や水使用量も大幅に削減できます。環境負荷が低減できる電子回路基板の製法であり、現在、液晶モニターのメーカーなどで導入が進んでいます。
技術確立まで6年かかる
中学、高校生の頃から科学に関心があり、大学では工学部で人工知能(AI)関係の研究。大学院では音声認識のアルゴリズムの研究をしていました。大学院の修士課程ぐらいから、世の中にない技術を開発したいと思うようになり、将来の起業の可能性も含めて、もっと広くものを見てみたいと思い、修士課程修了後はマッキンゼー・アンド・カンパニーに就職しました。そこに勤めている間に、起業できるものをいろいろと探していました。その中で、東京大学で今の会社に関連する研究が行われているのを見つけ、会社を立ち上げました。起業するなら社会貢献、環境負荷低減につながるものと決めていました。
その後、「エンジェル投資家」との出会いがあり、会社設立にめどがつきました。創業した2014年当時、電子回路基板の業界には、今のように環境負荷低減を意識した部品調達という取り組みは、あまりなかったですね。最初は業界もそんな量産技術は無理だし、求められていないという評価が専らでした。でも私たちは、将来、必ずそうした時代が来ると考えていました。創業から今の製法による量産技術の確立まで6年かかりました。世の中にない新しい技術を確立するまでは、時間がかかるものですが、環境負荷の少ない電子回路基板の製造技術が必要とされる時代が必ず来ると信じていたので、長く取り組み続けることができたのだと思います。駄目だったらやめようと思っていました。
今後は、まず今やっている事業を拡大していきます。まだ当社の製法で作れる電子回路基板の種類が少ないので、これを増やしていきたいですね。最終的な目標は、全ての電子回路基板が当社の製法で作られるようになることです。
====================
企業概要
事業内容:プリンテッド・エレクトロニクス製造技術の開発、製造サービスの提供
本社所在地:東京都中央区
設立:2014年1月
資本金:1億円
従業員数:94人(23年5月1日現在)
====================
■人物略歴
しみず・しんや
1988年大阪府生まれ。2010年東京大学工学部卒業、12年同大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、14年1月エレファンテック(前身のAgIC社)設立。35歳。
====================
週刊エコノミスト2023年6月20日号掲載
清水信哉 エレファンテック代表取締役社長 環境低負荷の電子回路基板製造法