電力取引で価格リスクを低減
enechain社長 野澤遼 2024.08.05エネルギー資源が乏しい日本。その調達の困難さに直面した元電力会社員が、課題に向き合う電力取引のスタートアップ企業を立ち上げた。(聞き手=和田肇・編集部)
「eSquare(イースクエア)」と名付けた電力の先物取引を中心とする取引所を運営しています。電力取引というと、日本卸電力取引所(JEPX)がありますが、JEPXは翌日や当日の取引が主体です。それに対し当社は、3カ月先とか1年先の電力を取引しています。取引といっても、物理的には電気は常に電線を流れていますから、あくまで概念的に電気を一定期間に区切って取引します。
電力の先物取引に関しては、東京商品取引所(TOCOM)の電力先物取引市場もあります。TOCOMは先物のみを扱いますが、当社は一部現物も扱っています。電力のほかに液化天然ガス(LNG)や原油の取引も行っています。
当社の取引市場には電力、ガス、石油元売り、新電力会社など電気事業のライセンスを持っている企業のほか、トレーダー企業なども参加しており、その数は現在、約250社に達しています。個人の資格で参加することはできません。2023年度の出来高は1兆円を超えました。こうした電力取引市場の運営ほか、電力小売りや発電事業者向けの電力販売リスクを診断するサービス、世界のエネルギー需給、マーケット情報を提供するサービスなども行っています。
2006年に大学を卒業して関西電力に入社。そこでLNGの調達に携わったほか、米国の資源商社に出向して電力取引市場の取引も経験しました。日本は初の電力取引所であるJEPXが03年にできたばかりで、電力取引はまだまだ小さな規模でした。
東日本大震災が転機
大きな転機となったのは、11年の東日本大震災です。日本中の原発が停止し、主に火力発電に頼るしかないので、私も関西電力でLNGや石油などの確保に奔走しました。海外の企業と交渉するのですが、もはや交渉と呼べず、相手の言い値で買うしかない状況でした。日本は資源に乏しく、化石燃料はほぼ全て輸入ですから、LNGや石油などの価格変動性(ボラティリティー)は非常に高い。
こうした日本のエネルギーのリスクを何とかできないか。一つは取引市場によって価格変動リスクを低減する方法があります。米社出向時に電力が盛んに取引されている現場を経験していたので、これだと思いました。16年に入社したコンサルティング会社でリスクヘッジの方法を顧客にアドバイスするなどの仕事に従事し、19年に退社して、今の会社を設立しました。
最初は、電力取引市場を作ると電力会社に話を持っていっても、なかなか理解してもらえず大変でした。電力取引市場のスタートアップ企業なんて、普通はありませんからね。ですが、参加企業は少しずつ増えていきました。やはり、資源の少ない日本は、エネルギー取引のニーズが強いのだと思いました。
今後は「CO2クレジット」(二酸化炭素削減価値)の取引も拡大していきたいですね。当社は「JCEX」(日本気候取引所)と名付けた、非化石証書など環境価値の取引市場も運営しています。将来、炭素税が導入される見通しですから、この分野も非常に重要になると考えています。
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企業概要
事業内容:電力取引市場の運営、エネルギーに関する各種サービス事業
本社所在地:東京都港区
設立:2019年7月
資本金:65億2020万円(資本剰余金含む)
従業員数:170人
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■人物略歴
のざわ・りょう
1981年兵庫県生まれ。2006年東京大学経済学部卒業、関西電力入社。液化天然ガスなどの確保や電力取引に携わる。12年ペンシルベニア大ウォートンスクール(14年修了、MBA)。16年ボストンコンサルティング入社。19年同社退社、enechain設立。
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週刊エコノミスト2024年8月13・20日合併号掲載
野澤遼 enechain社長 電力取引で価格リスクを低減