顔認証でホテルを無人化

スマートホテルソリューションズ代表取締役社長 高志保博孝 2022.06.13

「顔パス」でチェックイン・チェックアウト。次世代型のホテル管理システムが、日本の観光業を元気にする。

(聞き手=市川明代・編集部)

宿泊客はホテルの入り口で顔認証を済ませる

 顔認証でチェックイン・チェックアウトができるホテル管理システム「スマートホテルマネージャー」の開発・販売と、このシステムを導入したドミトリータイプの宿泊施設「bnb+」の運営をしています。

 ホテル運営の効率化には、予約管理や客室管理、売り上げ管理などを一元化したホテル管理システムが欠かせません。大手電機メーカーやIT企業などが開発に参入しています。当社のスマートホテルマネージャーは、顔認証によるチェックイン機能を組み込んだシステムで、タブレット端末にアプリをインストールするだけで使うことができます。

 宿泊客は、初回チェックイン時に顔写真を登録しておけば、チェックアウト時はもちろん、次回以降のチェックイン時にも顔認証のみで手続きを済ませることができるのです。

 最大の特徴は、導入価格の安さです。大手メーカーのホテル管理システムは、すべて一体の大規模なものが多く、初期費用だけで数千万円ともいわれます。中小のホテルが導入するにはハードルが高すぎます。当社のシステムは、ホテル側の負担は初期導入費5000円と顔認証1回当たり4.8円の利用料のみ。この価格も、閑散期や新型コロナウイルスのような非常事態で利用者が激減した場合に固定費が重荷になって経営が悪化することのないよう、状況に応じて変動させています。

 他社のシステムと連携させるのに必須なAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を公開しているので、将来的には、通信機能を持つルームキーやパスポート読み取り機などとつなぎ、無人に近い状態でホテルを運営できると考えています。

証券マンから民泊運営へ

 大学卒業後、リーマン・ブラザーズ証券に就職しました。外資系証券会社を複数渡り歩き、最後に上司とけんかして、金融業界から足を洗いました。不動産投資を始めたことでホテル経営に関心を持ち、2014年に大阪で民泊事業をスタート。民泊新法施行(18年6月)前で何かとトラブルも多く、旅館業法上の簡易宿所運営に切り替えることにしたのです。

 各地にバラバラにある宿泊施設を運営するのに既存の労働集約型のビジネスモデルでは効率が悪い。そこで、独自にホテル管理システムを作ろうと考えました。17年、ちょうど政府が顔認証システムの開発に力を入れ始めた頃で、うちは顔認証でいこうと決めて開発をスタートさせたところで出資者が現れ、創業にこぎ着けました。

 21年秋には、スマートホテルマネージャーの販売を開始。現在、自社で運営するbnb+は25店舗で、このうち16店舗と他社の宿泊施設3店舗でシステムが導入されています。

 力を入れているのは、スマートホテルマネージャーを使った街づくり。ホテルなどで顔写真登録を済ませたら、手ぶらで街に出る。飲食店や土産物店での買い物は「顔パス」。全てホテルのチェックアウト時に精算すればいい──。こんな仕組みがあれば街全体の活性化にもつながります。石川県白山市白峰地域と島根県海士町で実証実験を進めています。

 目的はシステムを売ることではなく、システムを通じてホテル運営や街づくりに貢献すること。日本の観光業を盛り上げていきます。

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企業概要

事業内容:ホテル管理システムの開発・提供、宿泊業等

本社所在地:東京都千代田区

設立:2018年1月

資本金:4999万9920円

従業員数:32人

宿泊客はホテルの入り口で顔認証を済ませる

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 ■人物略歴

たかしほ・ひろたか

 1976年奈良県生まれ。大阪大学、大阪大学大学院で船舶海洋工学を専攻。2002年4月にリーマン・ブラザーズ証券に入社し、金利デリバティブトレーダーとなる。複数の外資系証券会社を経て、14年に民泊運営開始。18年に「bnb plus」を分社化し、ホテル運営システムの開発、ホステル運営に着手。20年に社名を「スマートホテルソリューションズ」に変更し、システムの販売、観光地での活用を図る。46歳。