世のスキマ 自販機でお埋めします

スキマデパート代表取締役社長 芳屋昌治 2023.03.06

スキマデパート代表取締役社長 芳屋昌治

 自動販売機を一つのインフラに見立て、いままでに例のなかった商品販売・プロモーションを仕掛ける。(聞き手=白鳥達哉・編集部)

 ビルの空き室や小さな土地など、「スキマ」と呼ばれるスペースをうまく利用しながら、自動販売機を使って、飲料以外も含めたさまざまな商品の販売を行っています。

喫煙所にある自販機は売り上げがいいことも着目し、無料喫煙所「paspa」の運営も行っている

 単に自動販売機を置くだけではありません。たとえば、新型コロナウイルスが流行し、レストランなどの外食産業の閉店が多くなった時期には、売り先がなくなった地方の生産者と消費者の新しいつながりを作るために、食材を加工したドレッシングやジャムを販売する自動販売機を銀座の一等地に設置したのですが、同時に生産者の思いやストーリーをつづった大きなパネルを併設し、それを読みながら最後に自動販売機で商品を買えるという仕組みを作りました。このように、場所のデザインのほか、販売を利用したプロモーションも同時に仕掛けています。

始まりは1.5坪の土地から

 もともと、私は不動産会社を経営していたのですが、自動販売機事業に乗り出す転機になったのは、当時の顧客からの相談でした。その人は東京都原宿にあるマンションのオーナーだったのですが、そのマンションにある1.5坪ほどの植え込みにゴミを捨てられるので対策を考えてくれと頼まれたのです。

 そこで、その土地を借り受け、広告として使えるショーケースを作って置いてみたところ、近所の家具屋さんが月20万円で借りてくれました。それまで、不動産業界では1坪程度しかない土地のスペースを本気で活用する人はいなかった。これは面白いと感じ、原宿を一人で歩いて、1坪の空きスペースをチェックし、片っ端からオーナーに当たっていきました。

 そのような中で、同じスキマを狙うライバルもいました。それが飲料の自動販売機会社。2000年代半ば、自動販売機業界はピークに向かう絶頂期にあって、原宿あたりだと1台の飲料自動販売機を置くのに土地の所有者に契約金を約100万円、毎月マージンで10万円払うというレベル。そんなに払っても利益が出るビジネスってすごいなと思いました。

 一方で、もったいないなと思うこともありました。現在、世の中にある自動販売機は240万台といわれていますが、その9割以上は大手メーカーの機械で、あくまで自社の飲料製品を定価で売るためのものです。でも、自動販売機を一つのインフラと考えてみると、コンビニよりも多く、子どもから老人まで使い方が分かるすごいシステムです。であれば、単に物を売るだけでなく、いろいろな仕掛けができる。それを誰もやらないなんてもったいないと思い、起業を決意しました。

 街の中だけでなく、都会と地方、流通、時間や時代、バーチャルとリアル、そして人の心……。身の回りには本当にいろいろなスキマがあります。それらに着目し、世の中を面白くする仕組みを作っていきたいです。また、今後は自動販売機を使って、環境保護や防犯防災に貢献できるような仕掛けも作っていく予定です。

====================

企業概要

事業内容:自動販売機の運用・プロモーション

本社所在地:東京都千代田区

設立:2016年9月

資本金:1億円

従業員数:98人(グループ合計22年9月現在)

====================

週刊エコノミスト2023年3月14日号掲載

挑戦者2023 芳屋昌治 スキマデパート代表取締役社長 世の中のスキマ、お埋めします