「効き目を担保」で値上げ浸透

アース製薬 川端克宜 2025.03.24

Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

「効き目を担保」で値上げ浸透

── 今年8月に設立100周年を迎えます。2017年には殺虫剤の呼称を「虫ケア用品」とするなど新しい取り組みに挑んできました。社風をどう捉えていますか。

川端 意見を出しやすい風通しのいい雰囲気と、100年の伝統とを融合させたいと、社長に就任後の10年間、取り組んできました。何でも挑戦しようと言い続け、10年前とは180度変わりました。

── 経済環境は不確実性が高まっていますが、虫ケア用品を中心に業績は好調です。理由は?

川端 ダーウィンの進化論のごとく、常に外部環境の変化に対応し続けるものだけが生き残ると考えています。市場のニーズを捉え、的確に対応してきたことが好調につながっていると捉えています。

 例えば日本では、今やインフラ整備も進み、人々が虫と遭遇する機会は減りました。マーケットは縮小するはずですが、逆に「虫ケア」は広がっています。それは、人々の「減らしたい」とのニーズが「見たくない」に変わり、予防というニーズが生まれたのです。この変化を捉えられました。純粋な殺虫剤だけを扱っていたら、売り上げは減っていたでしょう。

── 景気の現状や先行きをどのように見ていますか。

川端 世界の経済環境と比べると日本はまだ物価が安く、今後も上がりそうです。ゆえに賃金の引き上げも欠かせません。企業利益を圧迫してでも先に人件費に還元するか、価格転嫁で利益を取れてから人件費に転嫁するか。考え方は企業によると思いますが、当社は前者を取るべきで、そのタイミングが今なのではと考えています。

 当社の商品は日用品ですが、トイレットペーパーなど絶対に必要なものかというと、どちらかと言えば自分の生活を楽にするためのものです。入浴剤は我慢しても生活はできます。だからこそ、当社の製品が売れるかどうかは、景気のリトマス紙のような判断材料となります。当社の業績が好調ということは、日本経済に地力が付いてきているのではと見ています。

── 24年12月期決算では入浴剤や洗口液などの日用品の売り上げも下げ止まりました。高価格帯品を厚めに出した効果が出たようですが、読みを当てたポイントは。

川端 日用品では、毎日使って定期的に買う物と、年に1度くらいしか買わない物があります。例えば虫ケア用品でも、予防用は年に1個買う程度です。そこには消費者の、安いならありがたいが、1個しか買わないからこそ絶対に効いてほしいとの思いがあります。当社の名にかけ、その効き目を担保します、代わりに若干値上げをさせてくださいという形で踏み切ったのが昨年ごろからです。

ライバルと海外で協業

── タイでは昨年、花王と協業で蚊を駆除するスプレーを発売しました。今後の海外戦略で注力したいことは。

川端 虫ケア用品の会社であることにこだわり続けはしません。ただし、世界に目を向けると、ASEAN(東南アジア諸国連合)地域は一年中暖かく、虫が活発な地域です。当社の強みも生かし、経済成長も見込めるASEAN地域をまずは軸にしたい。

 さらに、日本で売れているから売れる、ではなく、その国の方々に支持される商品展開をしたい。その中で、今回のタイの商品では、虫については当社に一日の長があり、花王さんには技術があり、タッグを組みましょうとなった。国内ではライバルでも、グローバル展開では手を組む時代が来ており、非常に意義があることでした。

── 企業向けに、衛生環境を維持・管理するサービスなどを行う「総合環境衛生事業」の24年12月期の売り上げは、前期比28億円増の318億円となりました。

川端 少し前から食品工場などで虫などの異物混入がクローズアップされるようになり、大きな事業として確立できるのではと力を入れ始めました。もしかしたら10年後には当社の業績をけん引していてもおかしくないとの思いでやってきて、言った通りになりつつあるという手応えを持っています。

── 日本発のウイルスの不活化や細菌の除去を可能にする新技術「MA-Tシステム」について、オープンイノベーションで社会実装を目指す取り組みを4年前に始め、参加企業は120社超です。

川端 前社長から会社を引き継いだときに言われたのが、経営者の仕事は、少し先の種を見つけてくることだと。ぱっと出てくれば楽ですが、そうもいきません。模索していた際に出会ったのがこの技術でした。新技術を生かせそうな分野は消毒剤のみならず、エネルギーや農薬など大きく6分野あり、当社の域を超えます。全く異なる業界と研究開発すれば、セレンディピティー(思いがけない発見)もあるかもと試したら、うまくはまりました。社会実装は私の在任中ではないかもしれませんが、あの時、始めていてよかったとなればいいなと思っています。

(構成=荒木涼子・編集部)

横顔

Q 仕事でピンチだったことは

A ピンチはありましたが、関西弁で言えば「もうどうもできひんな」と、途中で切り替えます。「生きてればなんとかなる、死なんしな」です。

Q 「好きな本」は

A たくさんありますが、特に歴史物語が好きです。一つ挙げるとすれば司馬遼太郎の『坂の上の雲』。結末が分かっているのに何度も読みたくなります。

Q 休日の過ごし方

A 休日と捉えると終わりを考え出すのが嫌なので、平日とあまり区別することなく、うまく気分転換しています。

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事業内容:医薬品、医薬部外品、医療用具、家庭用品などの製造・販売、輸出入 

本社所在地:東京都千代田区

設立:1925年8月

資本金:101億9200万円(2024年12月末)

従業員数:4878人(24年12月末現在、連結)

業績(24年12月期、連結)

 売上高:1692億円

 営業利益:64億円

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 ■人物略歴

かわばた・かつのり

 1971年生まれ、兵庫県出身。県立明石西高校、近畿大学商経学部卒業。94年アース製薬入社。役員待遇営業本部大阪支店長、取締役ガーデニング戦略本部長などを経て2014年から現職。53歳。

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週刊エコノミスト2025年4月1日号掲載

編集長インタビュー 川端克宜 アース製薬社長