芝浦プロジェクトで新たな付加価値

野村不動産ホールディングス 新井聡 2024.12.02

芝浦プロジェクトで新たな付加価値

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

── 2024年3月期は過去最高益を達成しました。

新井 住宅部門と都市開発部門が好調です。海外部門はまだブレがある状況ですが、資産運用部門や運営管理部門なども順調に推移しています。

 特に住宅は強いです。住宅は「PROUD(プラウド)」ブランドに集約して20年以上たちましたが、良いものをお客様に提供していくこだわりを評価していただき、その成果が花開いているタイミングだと思います。

── 事業の成長は計画通りですか?

新井 今期(25年3月期)は22年に立てた中長期経営計画のフェーズⅠの最終年で、事業利益の目標は1150億円でしたが、期初予想ではそれをクリアし1180億円を見込んでいます。

── 都市開発は芝浦プロジェクトが進んでいますが、現在の進捗(しんちょく)は。

新井 浜松町駅近くの海に面したエリアで、S棟とN棟のツインタワーを建てる計画です。ビルの延べ床面積は55万平方メートルで、我々としては過去最大級の巨大プロジェクトですので、しっかり仕上げていきたいと思います。

 S棟は来年2月竣工予定で、既に外観は完成しているように見えていて、高さ230メートルで地上43階、地下3階となります。上層階にはラグジュアリーホテル「フェアモント」が日本初進出します。中層階はオフィス、下層階は飲食を中心に商業施設が入ります。眺望は素晴らしく、海側はレインボーブリッジから羽田空港、晴海辺りまで見渡せます。一方、陸側も富士山がよく見えます。

 N棟については、まだ旧東芝ビルが建っていますので、それを解体して建設します。30年度に竣工できるように進めていきます。

── S棟竣工に合わせて、本社を移転するそうですね。

新井 来年夏ごろに本社をS棟に移転します。現在の本社(新宿野村ビル)は完成から50年近くたっていて、ワンフロアは約380坪です。当社が部門間や部門内のコミュニケーションを高めて付加価値を生み出していく観点では、効率が悪くなってきています。今度の芝浦のビルはワンフロアが国内最大級の1500坪です。中階段も設けて、人が行き来できるようにしてコミュニケーションを高めて、お客様に新しい付加価値を提供していこうと考えています。

 また当社は「PMO」ブランドをはじめ、オフィスビルの事業も手掛けていますが、我々自身が芝浦で新しい働き方を模索することで、その新しい働き方を、当社のオフィスに入っていただくお客様に提供していく狙いもあります。

豊かな生活と時間を提供

 

── 今後の都市の在り方をどう考えていますか。

新井 2030年ビジョンとして、「まだ見ぬ、Life & Time Developerへ」を掲げています。お客様に不動産を用意し提供して終わるのではなく、豊かな生活や時間をお客様に提供できるデベロッパーになりたいと思っています。しかし、これは我々だけで実現できるものではなく、その地域に住んでいる人たちや働く人たちをサポートして、皆が豊かになっていくような街づくりをしていきたいと考えています。そのためにエリアマネジメントにも力を入れています。

── 4月にはホテルの企画・運営を手がけるUDSを子会社化しました。

新井 UDSは「世界がワクワクするまちづくり」を掲げて事業を展開してきていて、さまざまなセクターで、我々が豊かな生活や時間を提供していくことにシナジーを生める会社ということで、グループに入っていただきました。当社は4棟、計681室のホテル事業を展開しています。一方、UDSは16棟、計1855室の部屋数を運営しています。あくまでお客様に新たな付加価値を提供するためにUDSをグループ化しましたが、ホテル事業の拡大を早める意味もあると思っています。

── 社長に就任して1年以上たちましたが、今後の抱負は。

新井 経営環境が大きく変わったと思っています。金利がほぼない時代が続いていたのが、金利のある世界に変わりました。ただし住宅を購入するお客様の賃金も上昇傾向にあるため、多少の金利上昇であれば大きな影響は出ないと思っています。株式市場も一時期に比べると大きく回復しましたので、資産効果的な観点で住宅の需要は強いと感じています。

 一方で、建築費の上昇が著しい。その中では、付加価値をしっかり提供していくデベロッパーでなければ生き残れないと思っています。当社グループには新しい付加価値を生み出せる社員がたくさんいます。一方、私自身は金融のバックグラウンドがありますので、そこに違う価値を提供することで、グループの成長を加速していきたいと考えています。

(構成=村田晋一郎・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか

A 人事やプロダクト系の仕事をしていましたが、課長から次長になる時期でした。自分が責任を持って判断しなければいけない状況で、日々悩みながらも、やりがいを持って動いていました。

Q 「好きな本」は

A 司馬遼太郎の作品は若い時も読んでいましたし、今も読み直しています。若い時に読む司馬作品と今読む司馬作品は違う感じ方があります。

Q 休日の過ごし方

A ゴルフをすることが多いです。シネコンの近くに住んでいるので、映画も見たりします。

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事業内容:住宅、都市開発、海外、資産運用、仲介・CRE、運営管理の計6部門で事業を構成

本社所在地:東京都新宿区

設立:2004年6月

資本金:1195億円

従業員数:7929人(2024年3月現在、連結)

業績(24年3月期、連結)

 売上高:7347億円

 営業利益:1121億円

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■人物略歴

あらい・さとし

 1965年生まれ、愛知県出身。私立東海高校卒業。88年東京大学経済学部卒業、野村証券入社。2017年野村ホールディングス執行役員、19年野村証券副社長就任。22年野村不動産ホールディングス取締役副社長執行役員を経て、23年4月から現職。59歳。

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週刊エコノミスト2024年12月10・17日合併号掲載

編集長インタビュー 新井聡 野村不動産ホールディングス社長