月次決算で会社の経営を強くする
TKC 飯塚真規 2025.02.03
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)
月次決算で会社の経営を強くする
── 現在の事業の概要は。
飯塚 当社は、会計事務所と地方公共団体向けにICTサービス、クラウドサービスを提供しています。TKC全国会という会員組織があり、現在1万1400人の税理士・公認会計士が所属し、全国63万社以上の法人税の申告を実践しています。現在、日本の法人は約320万社といわれているので、5社に1社はTKCのシステムで税務申告をしていることになります。
2024年9月期決算では10期連続最高益を更新し、増配も10期連続で実施しています。
── 10期連続最高益達成の要因は。
飯塚 クラウドへのシフトが大きいです。これにより、コストを最適化し削減できています。併せて売り上げのトップラインも上がり続けています。トップラインが上がりながらコストを圧縮できているので、利益も増やせています。
── 売り上げが上がり続ける理由は。
飯塚 一つは会計事務所向けの事業で、TKCシステムを採用している会計事務所と、その顧客企業、ならびに財務会計システム「FXクラウド」を新規に利用開始する企業が増え続けています。もう一つは地方公共団体で、新型コロナウイルス禍をきっかけに行政手続きのデジタル化・オンライン化のニーズが高まり、窓口業務のデジタル化「3ない窓口(行かない・待たない・書かない)」の実現を支援する「行政サービス・デジタル化支援ソリューション」の新規導入が進みました。
── TKC方式の強みは。
飯塚 TKC全国会は「会計で会社を強くする」をスローガンに顧客企業の管理会計を支援しています。決算や税務申告などを請け負うだけでなく、TKC会員の税理士は毎月顧客を訪問し月次決算を実施します。経営者は月次決算を読み解くことで、自社の最新業績を適時・正確に把握し、迅速な意思決定が可能になります。中小企業の約65%が赤字といわれる中で、TKCの財務会計システムを利用する企業は57・2%が黒字になっています。
特に新型コロナウイルス禍の際は、売り上げが突然ゼロになったり、コロナ明けにはエネルギーや部材のコストが上昇したりして、対前年比で経営することができなくなった。そこで予算を策定し、目標達成に向けて仕入れコストの上昇がどこまで許容範囲なのかなど、予算管理しながら経営していかざるをえない。そのためにも月次決算が必要になる。
月次決算を実施することで結果的に、TKC会員の税理士は経営者から頼られるようになり、TKCのシステムを導入する中小企業が増えていきました。
先行してペポルに対応
── インボイス制度が23年10月に導入されてから1年以上がたったが、変化をどう感じているか。
飯塚 インボイス制度の導入で、いろいろな企業の経理部門が大変になりました。19年に軽減税率が導入された時、インボイスが23年に施行されることも分かっていたので、当社は消費税法に完全準拠しながら、経理業務の手間をいかに減らすかという観点でシステムの開発に着手しました。例えば、既に財務会計システムに登録されている取引先名から適格請求書発行事業者登録番号であるT番号を逆引きできるようにしたり、日々の仕訳データに入力されたT番号を税務申告書や科目内訳書に連携させる機能を設けることにより、会計帳簿から消費税申告まで一気通貫で業務を完遂でき、業務の生産性向上と適正申告を実現しています。
一方で、日本のインボイス制度は2年前に導入されましたが、諸外国は30年前に導入されている。今や紙のインボイスの時代は終わり始めていて、デジタルインボイスが義務化され始めています。当社はデジタルインボイスに先行的に取り組んでいて、顧客が苦労なくデジタルインボイスに適用できるサポートを展開していきます。
── デジタルインボイスでは「ペポル」の対応を進めています。
飯塚 デジタル庁は、グローバルな標準仕様である「ペポル」の導入を進めています。TKCのシステムには標準機能としてペポルインボイスの送受信機能を搭載しています。当社はペポルに準拠し、国内初のアクセスポイントとしての認証をとって、インボイス制度開始と同時に23年11月から発行する請求書をほぼすべてペポルインボイスに変えました。
── 今後の展望は。
飯塚 世界経済自体がどうなるか分からない状況において、中小企業の経営者に必要なことは、毎期黒字化を実現し、自社を前に進めることと、自己資本比率を高め、財務的な安定性を担保することだと思います。そのために、月次決算の実施を日本の中小企業に根付かせるサポートをしっかり展開していきたいと考えています。
(構成=村田晋一郎・編集部)
横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか
A 中堅・大企業向けの事業の立ち上げに関わり、新しいシステムを企画・開発しました。その後、マーケティングも担当し、ブランディング向上につなげることができたと思っています。
Q 「好きな本」は
A 米インテル会長を務めたアンドリュー・S・グローブの『パラノイアだけが生き残る』です。事業変革の機会をいかに捉えるかという点で参考になります。
Q 休日の過ごし方
A 読書のほか、子供と一緒にキャンプやスキーに行くなど、アウトドアを楽しんでいます。
====================
事業内容:会計事務所、中堅・大企業、地方公共団体、法律専門家・法科大学院向けに会計・情報サービスを提供
本社所在地:栃木県宇都宮市
設立:1966年10月
資本金:57億円
従業員数:2922人(2024年9月現在、連結)
業績(24年9月期、連結)
売上高:752億円
営業利益:155億円
====================
■人物略歴
いいづか・まさのり
1975年生まれ、栃木県出身。私立作新学院高校卒業、2000年立命館大学文学部哲学科卒業。02年TKC入社。10年執行役員、12年常務執行役員、14年専務執行役員を経て、19年12月から現職。49歳。
====================
週刊エコノミスト2025年2月11・18日合併号掲載
編集長インタビュー 飯塚真規 TKC社長