ホテル椿山荘東京の魅力を向上

藤田観光株式会社 伊勢宜弘 2022.07.11

ホテル椿山荘東京の魅力を向上

伊勢宜弘 藤田観光社長

 

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

 

── 新型コロナウイルス禍はホテル業界には逆風でした。

伊勢 当社の事業は主に三つあり、ホテル・旅館事業は「ワシントンホテル」「ホテルグレイスリー」のブランドで展開しています。高級ホテルと婚礼・宴会事業は「ホテル椿山荘東京」(東京都文京区)やゴルフ場で、リゾート事業は箱根(神奈川県)を中心とするレジャー施設や旅館で「箱根小涌園」のブランドで提供しています。

 緊急事態宣言が断続的に発令されたことで、全事業が厳しい事業環境になりましたが、2021年12月期は126億円の純利益を計上しました。これは資産売却などさまざまな策を講じた結果です。

── 具体的には。

伊勢 まずは大阪市の宴会場・結婚式場「太閤園」を21年第1四半期(1~3月)に売却しました。インバウンド(訪日観光客)だけでなく、国内の人の動きも減り、負債が資産を上回る債務超過に陥りかねない危機的な状況になったためです。当社のルーツは1869年創業の藤田財閥にありますが、太閤園はその藤田財閥の祖、藤田伝三郎氏の元邸宅です。当社の代表的な建物の一つでしたが、債務超過になると上場会社として大きな痛手になることから、やむなく売却しました。その際、ホテル椿山荘東京についても、売却が取り沙汰されましたが、必要な事業の柱として今後も所有を続けていく考えです。

── 加えて、政府系金融機関から資本支援も受けました。

伊勢 21年9月に日本政策投資銀行が出資するファンドから第三者割当増資で150億円を調達し、手元資金を確保しました。増資後に195億円に増えた資本金を1億円に減資し、機動的かつ柔軟な資本政策に対応するための体制を整えました。こうしたさまざまな策により、21年は期末まで何とか持ちこたえることができました。

── 足元の状況はどうですか。

伊勢 今年は1~3月が前年同期比で増収に転じ、営業損失も縮小して業績が改善しました。特に3月以降、旅行する人が徐々に増えています。5月の大型連休は休日の並びが良く、長い休みをとれた人も多く、コロナ禍前の19年とほぼ変わらない売上高と利益を確保できました。6月からは団体旅行に限って外国人観光客の受け入れ再開といった良い話も飛び込み、さらに期待できる状況です。

 

円安メリット

 

── 外国人観光客の受け入れは、6月から添乗員付きパッケージツアーとして再開されました。今後の外国人観光客の動向をどのように見ていますか。

伊勢 外国人観光客が大勢やってくるかというと、まだ厳しい状況であることに変わりはありません。

 しかし、今は何といっても円安で、外国人は日本に3割引きで旅行や宿泊ができるような状況です。政府は1日当たりの入国者上限を徐々に引き上げる方針としていますが、外国人の受け入れを早く拡大してもらえれば、円安メリットを享受しようという人々が増えると期待しています。

── コロナ前と比べて、利用客に占める国内外の比率はどう変わるでしょうか。

伊勢 当社はコロナ前の19年度は外国人が全体の45%、このうち半分以上が中国で、次いで韓国、台湾、香港の順番でした。米国と欧州は合わせて10%程度でした。中国人観光客への期待はもちろんですが、今後は国内も増やす考えです。さらに外国人の中でも欧米の比率を少し高めて、バランスをしっかりとりたいと思います。

── ホテルの運営形態は所有や運営主体などさまざまです。コロナ禍を受けて変化はありますか。

伊勢 例えばワシントンホテルはリース方式が中心で、土地や建物をオーナーから借り上げ、当社がホテルを運営しています。コロナ禍では休業中や低稼働率でも賃料が発生したので、経営が圧迫されました。今後の出店形態を見直し、当社がノウハウ料やブランド使用料を受け取るフランチャイズ方式や、オーナーから運営を受託する方式を中心に広げていきたいと思っています。

── コロナ後の宿泊者の取り込みに向け、新規プロジェクトが相次いでいます。

伊勢 ホテル椿山荘東京は今年11月に70周年を迎えます。3年間をかけて庭園プロジェクトに取り組みました。人工的に水をミスト状にして噴霧し、雲海の出現や冬にはオーロラなど季節ごとに都会の庭園で楽しめる演出をしています。箱根では14年から始めた箱根小涌園再開発の一環で進めている「箱根ホテル小涌園」を建て替え、23年7月に開業予定です。

 今後もホテルチェーンとして勝ち残るために、さまざまな仕掛けをしていきます。ホテル椿山荘東京や箱根小涌園の広大な自然は、当社の強みだと思います。高層ビルに囲まれたホテルが持っていないようなサービスを提供し、差別化していきます。

(構成=桑子かつ代・編集部)

 

横顔

 

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 横浜伊勢佐木町ワシントンホテル(横浜市)の開業披露宴の前夜、上司の家庭の事情で急に総監督を任されることに。徹夜で再チェックし、無事に成功しました。

Q 「好きな本」は

A 『孫子の兵法』です。

Q 休日の過ごし方

A タウンウオッチングです。お店で売れ筋を見て回り、人だかりがあるとすぐに見に行きます。長期の休暇ではスキューバダイビングをします。

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事業内容:ホテル・旅館業、飲食店業など

本社所在地:東京都文京区

設立:1955年11月

資本金:1億円

従業員数:1158人(2021年12月末、連結)

業績(21年12月期、連結)

 売上高:284億3300万円

 営業損失:158億2200万円

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 ■人物略歴

伊勢宜弘(いせ・よしひろ)

 1960年山形県出身。山形県立山形東高校卒、学習院大学経済学部卒業。83年藤田観光入社。2014年執行役員、企画グループ経営企画・事業推進担当責任者、17年常務執行役員などを経て、19年から現職。62歳。