ニッチなものづくりで世界へ飛躍

湖北工業 石井太 2023.11.13

ニッチなものづくりで世界へ飛躍

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

── 売上高156億円(2022年12月期決算)のうち、リード端子事業が53%、光部品・デバイス事業が47%でほぼ半分ずつです。リード端子とはどのようなものですか。

石井 電気をためる役割があるアルミ電解コンデンサーを、電子基板につなげて電気を通す役割があります。電子機器の内部に組み込まれているので消費者が目にする機会は少ないですが、ほとんどの電子機器に使われており一般的な家庭なら数百個のアルミ電解コンデンサーが使われているとされます。リード端子は強度と精密を求められますが、私たちは1秒間に5個のリード端子を量産する溶接技術を持っています。月間生産量は約40億個で、地球3・6周分に相当します。世界シェアは4割以上(数量ベース)で、車の使用分に換算すれば2000万台分に当たります。

EV普及が追い風に

── リード端子事業の将来性をどうみていますか。

石井 ガソリン車にもアルミ電解コンデンサーが使われていますが、電気自動車(EV)はその数倍多いとされています。ハンドルや油圧ブレーキなど電子制御する部分にアルミ電解コンデンサーが使われており、EV市場がさらに拡大すれば、リード端子事業の追い風になると見込んでいます。

── 光部品・デバイス事業について具体的に教えてください。

石井 海底ケーブルに欠かせない光部品「光アイソレーター」などを生産しています。私たちはインターネットでメールを送受信したり、動画を見たりできますが、その土台になっているのが海底ケーブルです。世界に張り巡らされているケーブルの総延長は約130万キロメートルで地球30周分以上に達するといわれており、ネット社会の「大動脈」の役割を果たしています。第5世代移動通信システム(5G)や人工知能(AI)、IoT(モノのインターネット)などが普及すればインフラの超高速大容量化がさらに必要になり、ケーブルに使う光ファイバーを増やす「多芯化」が一層進む可能性があります。今後、巨大IT企業などによるケーブルの設備投資が加速するとみています。

── 海底ケーブルでの光アイソレーターの役割は?

石井 海底ケーブルは、髪の毛ほどの太さの光ファイバーを束ねてできており、光の点滅によって情報をやりとりしています。光は送る距離が長くなると弱くなる性質があり、一般的には光が100キロメートル進むごとに、強さは100分の1に減衰するといわれています。光アイソレーターは光を増幅する「アンプ」の役割を果たしており、光を遠くまで送るためにケーブルの一定間隔に中継器として設置しています。例えば、太平洋を横断する海底ケーブルの長さは約9000キロメートルありますが、100~200個の中継器が設置されています。また、光は一つの方向だけに真っすぐ進むわけではありません。光を一定の方向に整えて遠くへ送る機能もあります。

海底ケーブル部品も

── 湖北工業の強みとは?

石井 ケーブルは深さ6000メートルの海底に敷設されます。長期間にわたる使用に耐えるため、製品には頑丈さが求められます。海外の競合企業は光部品の結晶材料を外部から調達しているのに対し、私たちは結晶材料の組成から組み立てまでを一貫生産しており、他社がまねできず、大手も手を出しにくい「コア技術」だと自負しています。品質について高い信頼性を得ており、海底ケーブル用の光部品としては世界シェアの半分強を占めるまで成長しています。20年には、経済産業省の「グローバルニッチトップ企業100選」に選ばれました。オンリーワンの企業と考えています。

── 高純度石英ガラスレンズ事業にも力を入れています。

石井 石英ガラスのスラリー(泥状)を常温常圧下で硬化し、石英ガラスレンズを生産する「スラリーキャスト法」という技術が強みです。複雑な形状のレンズでも生産可能で、顧客の用途に応じたオーダーメードのレンズを作ることができます。石英ガラスは化学的に安定しているだけでなく、不純物が少なく紫外線の透過性に優れているなどの利点があり、半導体装置や医療機器関連、レーザー加工関連のレンズとして活用できます。リード端子、光部品・デバイス事業に次ぐ「第3の柱」に成長させる計画です。

── 21年には東証2部に上場しました(現在スタンダード)。

石井 上場によって投資家の注目度が一気に高まりました。特に欧州の投資家からの関心が非常に高いことに驚いています。上場前とはビジネスのステージが全く変わったと考えています。コア技術に一層磨きをかけ、滋賀・長浜の地から世界へ羽ばたいていきます。

(構成=中西拓司・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか

A 旧日本鉱業時代に、液晶ビジネス事業の新規設立を担当しました。ビジネス自体はその後、うまくいきませんでしたが、非常に勉強になりました。

Q 「好きな本」は

A 吉村昭さんの『海の史劇』です。吉村さんの作品は歴史の事実を丹念に調べ上げたうえで執筆されており、他の作品もよく読みます。

Q 休日の過ごし方は

A 若い頃はゴルフでしたが、今は歴史小説を読むことが一番の幸せです。

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事業内容:アルミ電解コンデンサー用リード端子、光通信用光部品・デバイスの製造販売

本社所在地:滋賀県長浜市

設立:1959年8月

資本金:3億5000万円

従業員数:1659人(2022年12月末、連結)

業績(22年12月期、連結)

 売上高:156億円

 営業利益:38億円

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 ■人物略歴

いしい・ふとし

 1958年生まれ。福岡県出身。神奈川県立横浜平沼高校卒。81年早稲田大学教育学部卒後、日本鉱業(現ENEOSホールディングス)入社。95年湖北工業入社。同社製造部長、常務などを経て99年副社長に就任。2000年に社長就任。65歳。

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週刊エコノミスト2023年11月21・28日合併号掲載

編集長インタビュー 石井太 湖北工業社長