ATMベースに事業領域を拡大
セブン銀行 松橋正明 2023.10.30ATMベースに事業領域を拡大
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)
── 2023年3月期、23年4~6月期ともに経常利益ベースで増収増益と足元の業績が好調な理由は。
松橋 基盤事業である国内ATMが堅調なことですね。コロナが一応収まって経済活動が増えた、我々のATMが電子マネーや地域通貨への現金チャージなど役割を広げている、多くの金融機関のATMが減る傾向にある、といったことが背景にあると思います。
── 9月には最新のATMを使った新たなサービス「プラスコネクト」を発表されました。セブン銀行以外の金融機関の口座開設や届け出情報の変更ができるそうですね。
松橋 窓口での有人対応の手続きはスマートフォンでできるものもありますが、ATMだとより簡単にできる。ATMは今まで現金の出し入れが中心でしたが、テクノロジーの進展で本人確認などが技術的にもやりやすくなったため、次の事業の柱としたいです。
ローン残高倍増を計画
── クレジットカードなどを手がけるセブン・カードサービスを7月に子会社化しましたね。この狙いは。
松橋 「7iD」という約2800万人が会員のグループ共通IDがあり、これに対して当初はセブン銀行口座単体で連携してサービス提供する方針でした。しかし、利用者の観点からいえばより便利なものにすべきとグループ内で議論した。カードサービスが一緒になればより高度でシームレスな体験を提供できるだろうという狙いです。── 中期経営計画で25年度の目標を掲げています。預金口座を22年度末比230万増の500万に、ローン残高を同比450億円増の800億円と意欲的ですが、どう進めますか。
松橋 先ほどのIDを軸にサービスを作りやすくして統合的な決済を提供することで(口座も)一定のご利用をいただけるかなと。ローンでいうと電子マネー「ナナコ」のご利用履歴などを踏まえて今までお貸しできなかった方にお貸しすることができる。従来型の「返済履歴」だと「ちょっとスマホのレンタル料金を返し忘れた」みたいなこともひっかかってNGになりますが、直近1年くらいの購買データなどを見せていただいてお貸しする判断をする。
── 伸ばしていくのは海外も。今は米国、フィリピン、インドネシアの3カ国で展開していますね。それ以外にも進出しますか。
松橋 3カ国を伸ばしていくし、それ以外も数カ国出て行くと思いますが、まだ申し上げられない。
── それぞれの国の特徴は。
松橋 米国は単純なATM運営会社的な現状から、セブン─イレブンと融合する形でID連携したりサービスを増やして若干赤字傾向にある事業を黒字化に持っていく。インドネシアは現地のトップ2チェーンに設置。台数増やしながら収益に厚みを増していく。フィリピンはセブン─イレブンに置ききって黒字。他のチェーンからも要請が来ていて置き始めています。
ライバルは世の中の変化
── セブン銀行は異色の銀行ですがライバルは。
松橋 世の中の変化とか、お客様のニーズの変化です。もしくは(スマートフォンのような)お客様の身近なデバイスがライバルということになるでしょうか。あるいは自動運転。
── 車がライバルですか?
松橋 車というか自動運転が始まると買い物の形態が変わるのではないかと。分からないですが、車から降りずにピックアップするとか。買い物のスタイルの変化は(影響が)大きい。
8割が中途採用
── 正社員の8割が中途採用ということですが、会社の社風はいかがですか。
松橋 社風はダイバーシティー(多様性)ですかね。もともと会社を作った段階から銀行出身、小売り出身、その他という集合体で価値観も言語も方向が違うなか、やってきた。人材の流動化って日本に必須と思いますが、そのお手本のような企業になりたいですね。
── セブン銀行の将来の姿は。
松橋 変化し続けることで生き延びる、進化し続ける。将来こうなるというか、常に変化していて、そこに行くと便利だよね、新しいよね、気持ちいいよね、という存在であることが最大(の目指すところ)ですね。
── セブン&アイグループでの位置づけは。
松橋 もともと銀行セクターとして分離して運営していました。今回のセブン・カードサービスの子会社化でかなり金融機能が集まったのでリテール金融の全体像は我々に一任いただいている感じですが、プレッシャーも増えたというところでしょうか。
横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか
A エンジニアとしてがむしゃらに設計したり企画したりしていました。
Q 「好きな本」は
A SFってわくわくしますね。一つ挙げるなら宇宙を舞台にした『レンズマン・シリーズ』(E・E・スミス著)です。
Q 休日の過ごし方は
A 最近はビデオ編集に凝っています。生成AIも使って挑戦中です。
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事業内容:ATM(現金自動受払機)に特化した銀行業
本店所在地:東京都千代田区
設立:2001年4月
資本金:307億円
従業員数:1016人(23年3月末、連結)
業績(23年3月期、連結)
経常収益:1549億円
経常利益:289億円
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■人物略歴
まつはし・まさあき
1962年生まれ。北海道出身。釧路工業高等専門学校卒業。83年日本電気エンジニアリング(現NECプラットフォームズ)入社。2003年アイワイバンク銀行(現セブン銀行)入社、常務執行役員、専務執行役員などを経て22年より現職。61歳。
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週刊エコノミスト2023年11月7日号掲載
編集長インタビュー 松橋正明 セブン銀行社長