工作機械で企業経営の効率化に貢献
DMG森精機 森雅彦 2025.10.20
Interviewer 清水憲司(本誌編集長)
工作機械で企業経営の効率化に貢献
── 工作機械の役割は?
森 金属などさまざまな材料から複雑な形状のものを削り出し、部品などに加工する役割があります。あらゆる製品は工作機械から生み出されるため「機械を作る機械(マザーマシン)」とも言われます。スマートフォンから宇宙ロケットに至るまで、人の暮らしの全てに工作機械が関わっています。
── 製品の強みは?
森 主軸の工具が回転して金属などを加工する「マシニングセンタ」と、素材が回転し、それに工具を当てて加工する「ターニングセンタ」があります。当社は両方の機能を兼ね備えた「複合加工機」や、五つの軸の回転の動きで高精度に加工する「同時5軸加工機」が強みです。世界で稼働する工作機械は500万台程度とされ、そのうち当社製は30万台程度あります。
── 2016年に独ギルデマイスターグループ(DMG)と完全経営統合し、来年で丸10年です。
森 協業自体は09年に始まり、約15年経過します。DMGは同時5軸加工機の製造を得意として欧州で圧倒的に強く、複合加工機に強い森精機製作所は日米やアジア地域に盤石な商圏を持っています。両社が組むことで全世界をカバーできます。工作機械の開発や製造に真剣に取り組んできた気質がともに共通しています。
── 5軸加工機などを導入するメリットは?
森 複数の工作機械に分かれていた製造工程を1台に集約できます。工程がシンプルになれば、これまで人の手に頼っていた工程も自動化しやすくなります。工程集約や自動化によって、中間在庫や消費電力、工場スペースを削減でき、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)に貢献できます。こうした一連の取り組みをMX(マシニングトランスフォーメーション)と位置づけています。導入企業の経営資源の効率化や社会課題の解決につなげたいと考えています。
── トランプ米政権による関税措置の影響は?
森 大きな影響はないと考えています。工作機械を日本から米国へ輸出した場合、米国側でソフトウエアや米国製の工具、治具などの周辺機器を追加することがあり、例えば1億円の工作機械なら最終的には2億円になることがあります。この場合、関税率15%は2億円ではなく輸出した1億円にかかるので、税率は全体で7・5%になります。これぐらいなら契約段階の調整で相殺できる範囲と見込んでいます。
防衛関連の需要継続
── ロシアのウクライナ侵攻以降、欧州の安全保障環境が悪化しています。受注への影響は?
森 現時点での防衛関連の受注は米国で全体の約20%、欧州でも20~25%あります。安全保障環境が整うまでの今後2、3年は、防衛関連の需要が続くとみています。
── 工作機械業界の再編をどうみますか。
森 国内には工作機械メーカーが数多くあり、いくつかの会社を核にグループ化されるのではないかとみています。工作機械の使用は長い場合は20年を超える場合もあり、メンテナンス、リペア、オーバーホール(MRO)に関わる人材確保が重要になります。また、あらゆる工作機械がインターネットにつながり、故障診断や保守点検などでソフトウエアによる遠隔作業の役割が増えていきます。AI(人工知能)の活用が進めばデータの蓄積が資本になります。こうした環境の変化に対応するにはインフラ投資を着実に進める必要があり、ある程度の企業規模が必要になると考えています。
── モーター大手のニデック(旧日本電産)による、工作機械大手の牧野フライス製作所への株式公開買い付け(TOB)が話題になりました(5月に撤回)。
森 工作機械業界の市場価値が見直された、という意義はあったと考えています。当社はM&A(企業の合併・買収)を通じて規模を拡大しましたが、敵対的なM&Aは1回もありません。社員や顧客が第一であり、仲良く切磋琢磨(せっさたくま)することが大切です。その一方、例えばジェットエンジンなら当社は主要メーカー各社に納品しています。各社とも数年後を見据えて商品開発を進めており、工作機械メーカーは独立性と守秘義務が非常に重要になります。
── 社長就任から約26年です。
森 売り上げ1000億円弱の企業を5000億円台に伸ばすことができました。社員には「工作機械を職に選んだことは非常にハッピーです」と話しています。精度が良く、フレキシブルな機械を作れば作るほど社会に役立ちます。企業努力がそのまま社会貢献につながる産業はなかなかありません。その上、世界各国のいろいろな企業から最先端の技術開発を依頼されるなど、ワクワクすることがたくさんあります。工作機械の魅力を次の世代にも伝えていきます。(構成=中西拓司・編集部)
横顔
Q これまで仕事でピンチだったことは
A 仕事では大きなピンチはなくラッキーでした。個人的には2016年の人間ドックで大動脈瘤(りゅう)が見つかり手術しました。大動脈瘤や大動脈解離で亡くなる経営者は多く、CT(コンピューター断層撮影)検査の受診を勧めています。
Q 「好きな本」は
A 『破壊なき市場創造の時代』 (チャン・キム、レネ・モボルニュ共著)です。牧野フライスのTOB問題の時に読みました。
Q 休日の過ごし方
A 4~12月はセーリングや山歩き、1~3月はスキーを楽しんでいます。
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事業内容:工作機械やソフトウエアなどを含むトータルソリューションの提供
本社所在地:東京都江東区
設立:1948年
資本金:718億円
従業員数:1万3951人(2024年12月末時点、連結)
業績(24年12月期、連結)
売上高:5409億4500万円
営業利益:437億2600万円
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■人物略歴
もり・まさひこ
1961年生まれ、奈良県出身。東大寺学園中学校・高校卒業。85年京都大学工学部卒業。同年伊藤忠商事に入社。93年森精機製作所(当時)に入社。常務、専務取締役などを経て、99年から現職。2003年東京大学大学院で工学博士号を取得。64歳。
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週刊エコノミスト2025年10月28日号掲載
編集長インタビュー 森雅彦 DMG森精機社長
