デジタルで買い物を進化させる

トライアルホールディングス 永田洋幸 2025.10.27

Interviewer 清水憲司(本誌編集長)

デジタルで買い物を進化させる

── トライアルホールディングス(HD)は昨年3月に東証グロース市場に上場しました。どのような事業を展開していますか。

永田 私の祖父が福岡市で設立したリサイクルショップが前身で、POS(販売時点情報管理)開発やシステム開発などのITが祖業の一つです。米小売り大手ウォルマートを視察して、「日本の流通でシステム改革をしたい」との思いから小売店舗の運営に乗り出しました。現在は今年7月に買収した西友を含め、9月末時点で国内外で602店舗を展開しています。

── 今年4月に社長に就任してから約半年が経過しました。

永田 西友の買収交渉が進む過程で社長になりました。そういう意味では、当面の私の目標は、トライアルと西友という二つの会社を一つにすることであり、西友の顧客に良い商品を届けていけるようにすることです。

 中長期的には、デジタル技術を活用して、顧客の買い物体験をさらに向上させていくことを目指しています。

── デジタル技術の活用とは、どのような取り組みでしょうか。

永田 大きく二つの柱があります。一つは自社で開発・導入している「スキップカート」(タブレット端末とスキャナーを搭載したショッピングカート)です。全国で約2万1000台を使っています。カートそのものにPOSを載せ、買い物中に商品のバーコードをスキャンしながらカートに入れていく仕組みです。レジでの会計を待つ必要がありません。

 もう一つが、実験的に進めている顔認証決済の導入です。事前に顔情報を登録することで、財布を持たずに買い物ができます。免許証情報をひも付けることで、年齢確認が必要な酒の購入もスムーズになります。将来的には顔認証でログイン、決済できるような環境を作っていきたい。買い物の「ムダ・ムラ・ムリ」を効率化し、よりスムーズに買い物をできるようにするデジタル戦略を進めていきます。

── 得られた大量のデータをどう活用していきますか。

永田 従来の流通業では、POSデータ、つまりレジで精算した際の販売データは「誰が買ったのか」という情報とひも付いておらず、顧客行動データを利用しきれませんでした。当社では自社開発のアプリ決済により、飲み物と同時に何を買ったのかなどのデータが得られます。

 データが欲しいのはメーカーなどの取引先も同じです。安全な形でデータを共有し、取引先も含めて共有することで、あるべき商品を店に置くことができます。データを積み重ねていきたいと思っています。

西友店舗周辺に小型店

── 「食」そのものの強化にも取り組んでいます。

永田 総菜には非常に力を入れています。専門店で経験を積んだ料理人を採用し、商品開発に携わってもらっています。総菜部門の責任者は、有名店での修業経験があります。そうした店での作り方や味を顧客に提供するため、職人の技を生かし、おいしい総菜を手ごろな価格で提供できるよう取り組んでいます。

── 買収した西友はかつて、小売業界を代表する存在でした。買収の狙いとは。

永田 西友と一緒になったことで、事業の“面”が広がり、これまで以上に多様な可能性を追求できるようになったと感じています。まず取り組みたいのは、九州で実験的に進めている小型店舗「トライアルGO」(IT技術を導入した次世代型スマートストア)導入です。西友の店舗周辺に展開する計画で、年内の首都圏出店を予定しています。

 二つ目の柱は「リテールメディア」の強化です。これは買い物中に商品情報など店内のサイネージ(電子看板)で顧客に直接伝える仕組みです。九州ではすでに他の小売業者との協業で進めています。近年はテレビCMなど従来型広告の効果が薄れており、買い物中に商品価値を直接伝えるリテールメディアの重要性が高まっています。西友との経営統合により、首都圏の顧客に商品の価値を伝えやすい環境になったと思います。

── ITと流通を融合させながら発展してきました。今後はどのような将来像を描いていますか。

永田 顧客が求めるものをテクノロジーを介して作っていきたいと考えています。私たちはそうした店を「スマートストア」といっています。スマートは「賢くなっていく」という意味。スマートフォンがアプリの更新で常に使いやすくなっていくように、店舗も顧客の課題を解決しながら、アップデートしていくべきです。地域や年齢層によって顧客のニーズは異なります。データを分析して精度を高め、顧客一人ひとりに合わせて店舗を進化させる、そんなスマートストアを実現したいと思っています。

(構成=安藤大介・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 12年ほど前、小売業向けにPOSデータの分析結果を提供するシステムを開発するも、米国での売り込みに失敗しました。良いものだと思って開発しましたが、顧客のニーズに合っていませんでした。

Q 「好きな本」は

A ジム・コリンズの『ビジョナリー カンパニー4 自分の意志で偉大になる』。自分の足りない部分に気づきました。

Q 休日の過ごし方

A 一番の楽しみはコーヒーです。休日はコーヒー豆を買いに行くことが多いです。浅煎りの豆が好きで、気になる店を探しては、いろいろな焙煎(ばいせん)を試しています。

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事業内容:小売り、物流、金融・決済、リテールテック(小売業にテクノロジーを融合させたサービス)など

本社所在地:福岡市

設立:2015年9月

資本金:198億円

従業員数:7080人(25年6月30日現在、連結)

業績(25年6月期、連結)

 売上高:8038億円

 営業利益:211億円

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 ■人物略歴

ながた・ひろゆき

 1982年生まれ。福岡県出身。2009年米コロラド州立大中退、トライアルカンパニー入社。20年トライアルホールディングス取締役。21年カンパニーコミュニケーション部長。25年4月から現職。43歳。

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週刊エコノミスト2025年11月4・11日合併号掲載

編集長インタビュー 永田洋幸 トライアルホールディングス社長