ショート動画に力を入れる

ベクトル 西江肇司 2025.11.10

Interviewer 清水憲司(本誌編集長)

ショート動画に力を入れる

── どんな特徴があるPR(広報)会社ですか。

西江 よく広告会社とPR会社の違いを聞かれます。例を挙げて説明すると、アパレルブランドがテレビでCMを流したい時に企画や制作などを担うのは広告会社。新店舗がオープンした時にメディアがニュース記事として取り上げるよう働きかけるのはPR会社の仕事です。PR会社はそのほか、企業広報部の外注先としてニュースリリースをメディアに届ける仕事をしています。しかし、当社は2000年にPRを事業の中心とした際、クライアントの広報予算ではなく、宣伝予算を取りにいきました。例えば、店舗オープンをテレビCMで知らせるより、番組で紹介されたほうが消費者は信頼します。宣伝予算を使う戦略的なPRという意味で「戦略PR」と呼んでいます。 

── どんな例がありますか。

西江 戦略PRの活用が盛んな業種に医薬品があります。例えば、製薬会社が帯状疱疹(ほうしん)治療薬の広告を出しても売れ行きが良くなるとは限りません。そこで、PR会社が製薬会社の依頼を受けて「世界的な学術データによれば、帯状疱疹に苦しむ人はこんなに増えている」「治療するにはこんな方法がある」といったことを医師が解説する番組や記事の制作をメディアに働きかけます。

動画再生数月200万回

── 本業のもうけを示す営業利益は25年2月期に前期比15・7%増と好調でした。背景は何ですか。

西江 当社は営業利益が4・9億円(12年2月期)だった12年に上場し、26年2月期は85億円を見込んでいます。「クライアントがあまりお金をかけずに商品やサービスを一瞬で広められるサービスを展開する」ことを目指してきました。

 今まではPRが事業の中心でしたが、今後は変わります。再生時間が短い「ショート動画」が伸びるだろうと気づいたからです。ショート動画配信アプリ「Tik Tok(ティックトック)」の新機能「TikTokショップ」は、商品を取り上げる動画を見た人が気に入ればその場で購入できる仕組みです。広告とPRと販売がセットになっていて、境がなくなりました。一方、地上波テレビの視聴者もインターネット検索サイトの利用件数も減っているように、消費者が触れるメディアが大きく変わっています。当社はショート動画に力を入れるなど効果的に対応できていることが好業績の理由だと思います。

── どんなきっかけでショート動画に力を入れ始めたのですか。

西江 大きく伸びると気づいたのは今春、石破茂首相(当時)のある発言に批判が高まった時です。その頃、僕が会った人は全員、テレビではなくショート動画で知ったというんです。こんなにスピーディーに映像で伝わる仕組みは今までなかった。ショート動画がメディアとして成立していると気づきました。

 だから、当社はこれを体系化しました。例を挙げると、ある飲食チェーンからショート動画を請け負って制作すると、動画再生数が月200万回ぐらいになり、店が客でいっぱいになりました。以前なら、タレントを起用して多額のお金をかけて15秒のテレビCMを制作するところです。ところが、ショート動画は台本が要るわけでもなく、店に行っておいしそうに見える動画を撮るインフルエンサーを手配し、手早くチェックして配信サービスに上げると、それで200万回再生になるわけです。

 もっと面白いのは、ユーザーがある動画を見ると、次々と似た動画が画面に表示されるTik Tokのアルゴリズム(計算手法)です。サーフィンの動画を一つ見ると、別の人が投稿したサーフィンの動画がどんどん表示され、いわばその人に合った「雑誌」のような機能を果たします。 だから飲食チェーンが新店舗をオープンしたら、記者や番組スタッフに呼び掛けてニュースにしてもらうのと同時に、インフルエンサーにも声をかけてショート動画を撮らせてネットに上げると一気に広がって消費者に届く。クライアントのコストは従来の5分の1から10分の1ぐらいでしょう。

── 人工知能(AI)をどう活用していますか。

西江 テレビ局の番組を宣伝する動画の制作を受託する際、特に効果的なシーンをAIを使って切り抜いています。手作業でやると時間がかかり、コストが2000万円ぐらいになるところ、AIだと月額20万~30万円で可能です。

── 海外展開はいかがですか。

西江 元々は海外進出した日本企業から仕事を受けていましたが、インバウンド(訪日観光)とアウトバウンド(日本人の海外旅行)をテーマにしたショート動画に力を入れようと思っています。現地に特化したショート動画や、ハワイを取り上げる英語の動画を制作して米国や豪州の観光客も狙うことを考えています。

(構成=谷道健太・編集部)

横顔

Q 30代はどんなビジネスパーソンでしたか

A 社長として仕事しながら結構大変な慢性疾患に苦しんだ時期でした。 

Q 「好きな本」は

A 米作家のナポレオン・ヒルの著書はほとんど全部好きですね。インドの思想家、オショー・ラジニーシが書いた本にも共感することが多いです。

Q 休日の過ごし方

A 45歳の頃に病気が治ってからは、湘南、千葉、バリ、ハワイでサーフィンを楽しんでいます。

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事業内容:PR事業、SNS(交流サイト)事業

本社所在地:東京都港区

設立:1993年3月 

資本金:30億円(2025年2月28日現在) 

従業員数:1650人(同、連結)

業績(25年2月期、連結)

 売上高:592億円

 営業利益:80億円

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 ■人物略歴

にしえ・けいじ

 1968年岡山県出身。87年岡山県立倉敷天城高校卒業、92年関西学院大学社会学部卒業、在学中からビジネスを開始、93年に会社設立。2000年に戦略PRを中心に据え事業を推進。22年社長兼会長、25年現職。57歳。

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週刊エコノミスト2025年11月18日号掲載

編集長インタビュー 西江肇司 ベクトル代表取締役会長兼社長CEO