美容室向けヘア化粧品で高収益

ミルボン 佐藤龍二 2023.07.31

美容室向けヘア化粧品で高収益

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

── ミルボンとはどんな事業を手掛けている会社でしょうか。

佐藤 当社はヘア化粧品を中心に製造販売していますが、特徴は販売チャンネルです。販売先を美容室に絞っています。全国各地の代理店への卸売りを通じて美容室向けに販売するビジネスを創業以来六十数年間続けてきました。

── 全国には美容室が約26万軒あります。ミルボンは業務用ヘア化粧品のシェアは17・6%と国内トップです。創業者の鴻池一郎氏(故人、元社長・会長)が美容室専業というビジネスモデルを取り入れるきっかけは何かあったのですか。

佐藤 首位になったのは1999年でそれ以降ずっとトップを継続しています。創業者の鴻池が、パーマ原液の代理店で学生時代にアルバイトをしていたことが美容室に特化するきっかけだったようです。冬にアカギレした手を水につけながら仕事をしている美容師の姿を見て、「この人たちに何かできることはないか」との思いで創業したと聞いています。

── 製品開発や営業面で、美容室に特化してヘアケア製品を扱うことの強みとは何でしょうか。

佐藤 一般的にヘアケア品は、B2C(消費者向け)のビジネスモデルで、不特定多数向けになりますが、当社はB2B2C(業者向けを通じ消費者に届ける)という形ですね。美容師は一人一人のお客に向き合うので、悩みや課題、「こうありたい」という理想に寄り添うことができます。髪の手入れのプロである美容師を通じて、お客の悩みに焦点を当てた製品を届けることは、B2Cでは難しいと思います。これが当社の強みであり価値でもあります。したがって製品価格も市販品と比べると、圧倒的に高額の製品をお客に提供して、美容室に来るお客にも価値として捉えてもらえることが当社の強みになると考えています。一般市場で通常サイズのシャンプー・トリートメントは1000~1500円で買うことができますが、当社の主力製品は同じサイズで1万円くらいします。

業績は右肩上がり

── 96年の株式公開以降、売上高はほぼ右肩上がりです。営業利益率も2022年12月期が16・7%と非常に高いですね。

佐藤 前年度対比を下回ったのは、過去に2回だけです。1回は決算期の日数変更(17年12月期)によるもので、もう一つはコロナ禍の20年12月期に売り上げが1・5%落ちました。六十数年間ずっと成長を続けてきた要因として3点あると考えています。

 一つは、ミルボンの経営理念を従業員に徹底していること。二つ目は、事業の進化を継続することです。製品開発では、人気美容師を招聘(しょうへい)してその人の目線やお客の目線でモノづくりを進めています。三つ目は、毎年の経営計画において、「ミルボンは今年こういう形で美容室をサポートする」と市場政策を発信して、社員に浸透させます。経営理念、顧客目線の開発、市場政策のいずれも、それを掲げない企業はありませんが、どこまで社内で徹底して実践するかが大事です。その結果として今のミルボンがあります。

── 海外市場にも注力して、直近の決算では売上高452億円のうちの99億円と2割を超えています。現在の売り上げは韓国、中国、米国の順ですが今後の拡大をどう考えていますか。

佐藤 国内と海外合わせて成長を続けることが大事だと考えています。美容室は世界中、どの国・地域にもあります。美容技術にも大きな違いはありません。ただし、決定的に違うのは髪質と価値観です。美容は文化だといわれますし、美しさの概念は世界中にあるけれど、美しさの定義は地域によって違います。

 当社は地域ごとの髪質に合わせた製品作りやサポートを進めていきます。ただ、いまでも売り上げの中心は(東アジア中心の)「黒髪圏」と呼ばれる地域。そこを中心に、欧米を含めて世界に焦点を当てていこうと考えています。

── 中期事業構想では26年12月期に売上高を前年度比28%増の580億円、営業利益率も現在から2%上げる目標です。

佐藤 一つは、海外が成長の原動力になるのは間違いないでしょう。日本は人口が減少していますので、業務用のパーマやヘアカラーなどヘアケア商品だけでは、商材は微減するでしょう。ただ、「奇麗になりたい」という需要は減ることはありません。ヘアケアだけではなくて、2年半前に始めた化粧品や、パナソニックとヘアドライヤーなどの美容器具を開発しました。花王とは美容室でのビューティーヘルスケアに関する新たなサービス開発を研究しています。「髪」は経営の土台であり今後も継続しますが、「髪のみ」からは脱却します。今後もパートナーを拡大して、新たな売り上げを創造することで、国内でも成長を継続できると考えています。

(構成=浜田健太郎・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A コロナ禍です。2020年4月に緊急事態宣言が出て、美容室に行けなくなりました。当時はどれくらいコロナが続くのか先が読めませんでしたから。

Q 「好きな本」は

A 月刊誌『選択』の編集長だった飯塚昭男さん(故人)が『リーダーの研究Part2』という本で「一国の興亡は指導者」と喝破されています。会社に言い換えると「一社の興亡はリーダーにあり」。腹に落ちました。

Q 休日の過ごし方

A 読書や散歩です。街を歩くことによって感じることもやっぱりありますね。

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事業内容:ヘア化粧品の製造・販売

本社所在地:東京都中央区

設立:1960年7月

資本金:20億円

従業員数:(1097人、2022年12月末、連結)

業績(22年12月期)

 売上高:452億3800万円

 営業利益:75億5100万円

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 ■人物略歴

さとう・りゅうじ

 1959年長崎県出身。佐世保工業高等専門学校を卒業後、1981年ミルボン入社。2002年3月取締役マーケティング部長、03年12月常務取締役を経て08年3月から現職。63歳。

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週刊エコノミスト2023年8月8日号掲載

編集長インタビュー 佐藤龍二 ミルボン社長