市場の低アルコールシフトに照準

宝酒造 渋谷尚己 2025.09.29

Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

市場の低アルコールシフトに照準

── まず宝酒造のグループでの位置づけ、主な事業内容を教えてください。

渋谷 持ち株会社の宝ホールディングスは9月に創立100周年を迎えました。宝酒造は国内の酒類事業を担うグループの中核会社です。清酒、焼酎などの和酒、本みりんや料理用のお酒など和の調味料を主に扱っています。

── 2025年3月期の業績についてどう評価していますか。

渋谷 本みりんなどの調味料は売り上げが増えたのですが、清酒、焼酎が市場全体の縮小に伴って売り上げが減少し、全体としても減収でした。市場が拡大し本来伸ばすべき缶チューハイに代表されるRTD(ふたを開けてすぐに飲めるアルコール飲料)について、当社は昨年10月に価格改定(値上げ)したところ、他社の追随がなかった影響で前年並みの水準にとどまったことが背景にあります。営業利益は原材料費増、為替(円安)が影響して減益でした。

── 26年3月期は売上高で前期比0・9%増の1206億円、営業利益は5・9%増の53億円を予想しています。手応えは。

渋谷 (RTDについて)他社は今年4月に価格改定しましたので、当社としては今期に伸ばしていけると考えています。特に(値段が安く)価格優位性がある商品が売れていますし、見込んでいる業績は大体想定通りに進んでいると思います。

需要は価格帯で二極化

── 業務用(居酒屋など向け)と家庭用に分けた場合、足元の市場動向をどう見ていますか。

渋谷 家庭用については(価格帯が)二極化してきていることを感じます。ナショナルブランドの中で当社は少し価格の安い商品が伸びている一方で、清酒、チューハイでのプライベートブランドが家庭向けに増えています。半面、多少高くても価値を感じていただける商品は買っていただけます。

── 業務用はいかがですか。

渋谷 いわゆる「お酒を飲む店」が少なくなってきて、すしや焼き肉店へと(飲酒の需要が)シフトしています。食べるお店なので「お酒を飲む店」と同じようにお酒が出るわけではない。飲み会で「2軒目」に行く需要が減っていることも影響しています。

── 低アルコール、ノンアルコールを含む「重点ブランド」の主要商品に注力しています。まずその筆頭とも言える「焼酎ハイボール」について教えてください。

渋谷 発売して来年3月で20周年になります。糖質ゼロ、甘くなくて食事に合うという点を評価していただいています。かつての缶チューハイは甘いものが多く、フレーバー(風味)の果実感を競う商品が主流でしたが、今は食事に合うかどうかが大事です。今期は前期比8%増の1830万ケース(1ケースは350ミリリットル缶×24本換算)の販売を計画しています。アルコール度数が5%と(主流の7%より)低めの商品の割合を増やす方針です。

── ノンアルコールでは「辛口ゼロボール」があります。

渋谷 ノンアルコール市場も拡大しており、今期は前期比21%増の45万ケースの販売を計画しています。他社と同じように甘いものを出しても価格競争につながるだけなので、ノンアルでありながらお酒を飲んだような雰囲気になる味わいの商品です。

── 度数3%の「発酵蒸留サワー」にも期待がかかりますね。

渋谷 甘くない3%のチューハイです。(度数3%で)甘い商品だと他社と差別化できませんので、当社ならではのベースアルコールにこだわっています。

── 日本酒では「松竹梅白壁蔵 澪(みお)」があります。

渋谷 (発泡性の)スパークリング日本酒で、度数5%です。日本酒でもスパークリングや低アルコールが注目されていて、20〜40代が購入のきっかけにするそうです。米メジャーリーグの球場で広告を出し、海外展開もしています。

── 最近、コメの価格が上がっていますが、日本酒に影響は出ていますか。

渋谷 農家が食用米にシフトして酒米が足りなくなっているとの見方もありますが、当社は酒米を確保できています。しかし、コストが上がっているのは確かなので、価格転嫁を含めたあらゆることを考えて対応していきます。

── 調味料の「タカラ本みりん」がトップブランドを維持しています。どういう強みがありますか。

渋谷 18種類以上のアミノ酸が9種類以上の糖と相まって特別なうまみが出ています。独自の組成による複雑な味わいが支持され、多くの料亭でもお使いいただいています。

── 酒類メーカーなどに原料用アルコールを販売されています。

渋谷 みそとか医薬品、化粧品、化学品といったようなところにも販売しています。コロナ禍では手指消毒用の優先供給について国から協力要請があり、少しかもしれませんが貢献できました。

横顔

Q 今までピンチだったことは

A 営業の責任者だった2021年に、缶チューハイのふたの不具合で大規模回収したことです。消費者、小売店さんなど皆さんに大変ご迷惑をおかけし、二度と起こしてはいけないという教訓になりました。

Q 「好きな本」は

A 元駐中国大使、元伊藤忠商事社長の丹羽宇一郎さんの本は全部読んでいます。人との関わり方などについて印象に残る言葉が多いですね。

Q 休日の過ごし方

A トレーニングジムで2時間くらい汗をかいたり、犬の散歩をしたりして体を動かしています。

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事業内容:酒類、酒精、調味料、その他の食料品及び食品添加物の製造、販売

本社所在地:京都市伏見区

設立:2002年

資本金:10億円

従業員数:1232人(2025年3月31日現在)

業績:(25年3月期)

 売上高:1196億円

 営業利益:50億円

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 ■人物略歴

しぶや・なおき

 1964年生まれ。埼玉県出身。87年専修大学経済学部卒業、寳酒造(現・宝ホールディングス入社)。2002年の持ち株会社化で設立した事業会社(子会社)の宝酒造で12年に九州支社長。西日本支社長、執行役員、常務取締役を経て25年6月より現職。61歳。

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週刊エコノミスト2025年10月7日号掲載

編集長インタビュー 渋谷尚己 宝酒造社長