社会インフラが競争力の源泉

アドソル日進 篠﨑俊明 2025.06.16

Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

社会インフラが競争力の源泉

── 情報通信技術(ICT)を使って課題を解決するICTソリューションを手がけていますね。

篠﨑 社会インフラに密着したシステムを作り、成長してきました。電力やガスといったエネルギー分野が売り上げの約半分を占めています。近年ではデジタル化の進展に伴い、システム開発にとどまらず、サービスの提供にも力を入れています。BtoB(事業者向け)の事業をしていますが、その先にいるコンシューマー(消費者)を意識し、独自ソリューションやAI技術の導入に積極的に取り組んでいます。

── 2025年3月期は売り上げ、営業利益とも好調でした。

篠﨑 ここ数年、過去最高を更新し続けています。中期経営計画の目標を1年前倒しで達成できました。主力のエネルギー分野、特に電力・ガスが好調で、決済系システム事業も順調でした。九州支社の移転など、オフィス環境の整備にも取り組み、コンサルタントやAI技術者の育成をはじめとする教育面にも投資しました。積極投資をしても、利益は最高水準を維持しており、会社の体質が大きく変化していると感じています。

── 中期経営計画は今年度が最終年度です。

篠﨑 現在の中期計画では「次世代エネルギー」と「スマートインフラ・スマートライフ」という二つの柱を掲げており、その先に「スマートシティ」の実現を目指しています。次の中期計画でも、エネルギー事業の継続的な強化と、スマートシティ構築に向けたアライアンス強化を進める予定です。

 30年を見据えた戦略も策定し始めています。キーワードは「変革」「加速」「成長」の三つ。新技術や変化に柔軟に対応する変革、AIなどの急速な進化に対応した加速、そしてその先の成長を目指していきます。

直接取引で課題を解決

── エネルギー分野が売り上げの半分を占めています。

篠﨑 当社は、発電された電力の安定供給に必要な系統制御のためのシステム開発をしています。系統制御は天候や需要の変化への対応が求められますが、難しい技術に50年間取り組み、ノウハウを積み上げてきたことが、他社にはない大きな特徴です。大手電力、ガス会社と直接取引ができていることも強みであり、各社の社内システム開発などに携わっています。

── そうした強みはどのようにして生まれたのですか?

篠﨑 IT企業の多くは金融系の専門で、社会インフラに特化する会社は多くありません。他と違う会社を目指す中で、当社は電力から始まり、鉄道、通信、監視システムと対象を広げていきました。会社設立時は大手メーカーからの仕事をしていましたが、小さな会社で身軽に動ける利点を生かし、エンドユーザーとの距離を縮め、経営課題の解決などで信頼を得てきました。こうした直接取引の拡大も強みにつながっています。

── AI利用拡大などで電力需要は伸びています。

篠﨑 エネルギーのビジネスは国策に沿って進んでいます。国が定めた設備の更新やセキュリティー対策は、30年ごろまでの工程が決まっており、安定した需要が見込まれます。

 一方、データセンターやAIの普及で電力需要が急増する中、電力需給の逼迫(ひっぱく)への対応として、特に大口需要家向けに、電力を効率的に使うためのビジネスが重要になってきています。こうした分野に強みを持つフランスのシュナイダー・エレクトリック社と提携し、同社が持つ電力効率化の装置と、当社の電力制御のノウハウを融合させ、データセンターなどにサービスを提供しています。自前で発電所を建設しようとする大口需要家の動きもあり、新たなビジネスチャンスが生じています。

── クレジットカード会社向けのシステム開発事業が成長しているそうですね。

篠﨑 エネルギー事業と並ぶ大きな柱になりつつあります。クレジットカードの決済システムの開発がきっかけで始まり、もう30〜40年取り組んでいます。ある大手決済代行業者と直接取引をするようになり、事業が大きく拡大しました。同社のクレジットカードの決済基盤から、その上で動くアプリケーションまで幅広く担当しています。決済システムと一言で言っても、クレジットカードの入会審査から決済全般に関わるシステムまでカバーしており、長年の取り組みで多くのノウハウが蓄積されています。

 近年では、クレジットカード以外の決済にもビジネスを広げています。QRコード決済やデビットカード決済など、決済手段は多様化していますが、これらも決済代行業者を経由して処理されます。この業界では、スマートフォン決済の拡大による少額決済の普及やセキュリティー対策の強化などへのニーズが高まっており、成長が期待できる分野だと考えています。

(構成=安藤大介・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか

A 営業部ではありませんが、営業的な動きをしていました。新卒でエンジニアとして入社したものの、エンジニアとしての仕事は多分5年間ほどしかしていません。

Q 「好きな本」は

A 歴史や古いものが好きで、司馬遼太郎をよく読みます。最近では『坂の上の雲』ゆかりの松山市に行ったのをきっかけに読み直しました。

Q 休日の過ごし方

A 畑で野菜作りをしています。亡くなった父親が手帳に育て方を残しており、それを見て作っています。一年中作っており、野菜はほぼ自給自足の状態です。

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事業内容:社会インフラ・先進インダストリー向けICTシステム開発、DX・IoT(モノのインターネット)ソリューションの提供

本社所在地:東京都港区

設立:1976年3月

資本金:5億7000万円

従業員数:676人(2025年4月1日現在、連結)

業績(25年3月期、連結)

 売上高:154億円

 営業利益:17億円

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 ■人物略歴

しのざき・としあき

 1966年生まれ。埼玉県出身。私立拓殖大学第一高校卒業。89年東京工芸大学工学部卒業、アドソル日進入社。2018年常務、20年専務。21年から現職。59歳。

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週刊エコノミスト2025年6月24日号掲載

編集長インタビュー 篠﨑俊明 アドソル日進社長