AIでインフラ企業の中核業務を支援

グリッド 曽我部完 2025.07.14

Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

AIでインフラ企業の中核業務を支援

── グリッドとはどんな会社ですか。

曽我部 社会インフラに対して人工知能(AI)など新しいテクノロジーを使って世の中に貢献しようという考え方で事業に取り組んでいます。具体的には、顧客であるインフラ企業のオペレーションの計画を立案して、最適化することです。インフラを動かすには、詳細な計画を立ててサービスを安定的に供給する必要があります。この運用計画を立案することはかなり大変な作業で、それを当社の仕組みで自動的に策定して最適化することをしています。

── 具体的にどのようなインフラの計画を立てているのでしょうか。

曽我部 いくつかの分野を手掛けています。電力会社の発電所を動かすような計画や、鉄道会社の運行計画、海運会社の運航計画などを立案しています。高速道路会社には渋滞予測を提供していますし、輸送会社、宅配会社の運行の計画も手掛けています。社会の裏側で動いているインフラ会社のお手伝いをしています。ほかにも製薬会社のツムラにAIを活用した生薬の在庫最適化システムを提供するなど、一部には製造業の顧客企業もあります。

── 設立は2009年です。創業の経緯は。

曽我部 当初は再生可能エネルギーの電源開発を主体にメガソーラー(大規模太陽光発電)を手掛けていました。FIT(再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度)も始まっていませんでしたが、これから再生エネルギーが必要になるので、その分野に携わっていこうというのが当初の経緯です。

── それがどうしてAIを活用したソリューション開発に転じたのでしょうか。

曽我部 14〜15年ぐらいから、人工知能の性能を飛躍的に高めた機械学習やディープラーニング(深層学習)が開発されました。そうした技術を駆使して、当社の再エネ電源からどのように系統(電力会社の送配電網)に電気を供給するのかを予測しようとAIを活用したのが当初の経緯です。発電所にさまざまなセンサーを付けてデータを収集しながら、その発電所が3日後にどれくらい電気を生み出すのかを、気象データをにらみながらこの場所にどれくらいの日射があるのかを計算して予測することを14年ごろに始めたのが現在のビジネスに方向転換する契機になりました。

── 電力会社の需給計画とか海運会社の運航計画などはインフラ企業の中核の業務に携わる印象ですけれども、食い込むことができた要因とは何でしょうか。

曽我部 当初は、ディープラーニングのモデルを作るための基礎となるフレームワーク(枠組み)を開発し、その際の計算の中核を開発していました。時系列での異常検知予測や画像認識のようなディープラーニングで可能となる技術をベースに事業展開を考えたわけです。ただ、異常を検知するだけでは社会的なインパクトや経済価値をあまり生まないと考えていました。それよりも化石燃料の消費数量を削減すれば、顧客のコスト削減に貢献するので、利益改善につながります。

 当社のスタッフにはインフラ出身のエンジニアもおり、インフラの業務に関わることが好きな社員が集まっているので、顧客企業のスタッフとも会話がしやすかったのだと思います。

将来は海外で成長狙う

── 大株主として三井物産、伊藤忠商事、丸紅の大手商社3社が出資した経緯は。

曽我部 機械学習などAI技術を会社のメインの事業に変更して、17年に大手商社3社に出資してもらいました。商社は世界中のインフラに投資をしていて、開発自体にも関わっているので当社のビジネスとの親和性が高かったことも出資を受けた要因です。顧客企業の紹介などでも非常に協力してもらっています。

── 海外での事業展開など今後の成長戦略は。

曽我部 海外にはチャレンジしていきたいです。当社社員には中国籍など10カ国以上の出身者が在籍しており多様なメンバーで構成しています。インフラ会社の業務は世界中で共通している点が多いので、日本で実績を積んだ事例を海外に展開することは可能だと思います。とはいえ、まずは国内を優先して実績を上げていくことが成長戦略の基本です。

── AIが人間の仕事を代替するという論調があります。こうした疑問にどう答えますか。

曽我部 今から500年前にあった当時の職業は、一部の例外を除いて残っていません。逆に20年前に、「インスタグラマー」など誰も想像していませんでした。時代とともに、テクノロジーの進化に応じた新しい職業に変わっていくのだと思います。長期的に見たら新しい仕事がどんどん生まれてくると思います。

(構成=浜田健太郎・編集部)

横顔

Q 30代の頃どんなビジネスパーソンでしたか

A 起業家志望で32歳で物流会社を作りました。倉庫を借りて自分でフォークリフトを運転して荷物を運んでいました。

Q 「好きな本」は

A 企業家の意志決定を分析した『エフェクチュエーション』(サラス・サラスバシー著)です。自分がやってきたのはこれだと納得しました。漫画の『キングダム』(原泰久)は、ビジネスに通じるので楽しく読んでいます。

Q 休日の過ごし方

A この2年間週末は大学院に通って勉強しました。解放されて4月から家族と過ごしています。あとラグビー観戦が大好きです。

====================

事業内容:人工知能(AI)を用いたインフラ向けソリューションの開発・販売など

本社所在地:東京都港区

創業:2009年10月

資本金:5210万円

従業員数:121人

業績(24年6月期、連結)

 売上高:16億5200万円

 営業利益:3億6500万円

====================

 ■人物略歴

そがべ・まさる

 1973年生まれ。東京都出身。大学卒業後1997年4月日比谷花壇入社、2009年10月グリッド設立、代表取締役社長に就任し現在に至る。52歳。

====================

週刊エコノミスト2025年7月22・29日合併号掲載

編集長インタビュー 曽我部完 グリッド社長