首位の小麦粉やパスタをさらに拡大

日清製粉グループ 瀧原賢二 2023.02.06

首位の小麦粉やパスタをさらに拡大

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

── 2023年3月期の連結業績は185億円の最終(当期)赤字を予想しています。どういう事情からですか。

瀧原 製粉を手掛ける豪州事業の損失を一気に減損処理したことが主な理由です。新型コロナウイルスの影響などで赤字が膨らみ、今期に558億円の減損処理をせざるを得ない状況に陥りました。問題を一気に吐き出し、来期以降にV字回復にもっていく考えです。

── 大きな課題をクリアにするわけですね。

瀧原 私が最大の課題だと考えてきたのは、豪州事業のほかにもう一つ、食糧インフレがあります。小麦は国内需要の85%を米国、カナダ、豪州からの輸入で賄っており、政府が計画的に輸入しています。この輸入小麦の政府売り渡し価格は、国際市況や為替相場に連動する形で4月と10月の年2回改定されます。昨年10月はルール通りにいけば2割ほど上がり、食糧インフレの影響はそこで終わると考えていたのですが、政府が緊急で据え置きました。

 原料の輸入小麦の価格が据え置かれたのに、当社が商品価格を改定することはなかなかできません。政府は22年10月に据え置いた分を今年4月の改定で反映すると思うので、そこで一気に10〜15%上がると思います。

── 「フラワー」ブランドの小麦粉が主力ですが、そうした消費者向けの商品価格にも影響することになりますね。

瀧原 消費者向け商品だけでなく、当社が業務用小麦粉を値上げすれば、パン、麺、菓子の価格にも波及すると思います。ただ、今の相場でいくと、今年10月には政府売り渡し価格は下がる可能性が高いと思います。そうなると商品価格も下がりますし、その先の加工食品の価格も同様でしょう。その意味で、消費者にはあと半年だけ理解してもらいたいです。

── コロナ禍では外食を避けて自宅で食事をする人が増えました。パスタなどの加工食品事業に恩恵はありましたか。

瀧原 確かに「内食」(家庭で調理する食事)が爆発的に増えた時期がありました。その需要に応えるため、この1、2年は新商品を比較的多く発売してきました。ただ、感染防止の行動制限が緩和されるに伴って外食需要が回復し、内食は落ち着きつつあります。その対応として、加工食品事業を担う「日清製粉ウェルナ」のパスタソース「青の洞窟」ブランドに昨年、高級感のある紙パックを省いて価格を少し下げた商品を加えました。

── 総菜や弁当などを自宅に持ち帰って食べる「中食」も、グループ会社で手掛けていますね。

瀧原 中食事業の始まりは1999年に和総菜の会社を買収したことです。製粉事業とは違って輸入品との競合がないことが魅力と感じ、買収を重ねてコンビニや量販店向けのおにぎり、サンドイッチ、弁当なども手掛けるようになりました。22年3月期の売上高は1383億円と大きな事業に成長しました。市場規模は過去10年間で2割伸びており、今後も収益貢献が期待できると思います。

印イースト事業を拡大

── 海外はどうでしょうか。

瀧原 製粉事業は米国、カナダ、豪州、ニュージーランド、タイの5カ国で手掛けています。まずは豪州事業の改善が最優先課題です。業績が良い米国とカナダの収益をしっかりと維持し、次の投資を考えたいと思っています。加工食品事業ではトルコと米国でパスタ、タイとベトナムでパスタソースを製造しています。ほとんどが日本向けですが、今後は現地販売にも挑戦したいですね。

 さらに、インドのイースト事業も強化したい分野です。22年8月にイースト(パンを膨らませるために必要な酵母)を製造する工場が稼働し、すでにインドで1割のシェアを取りました。インドではパンの消費量がすごい勢いで増えています。他社の工場は老朽化しており、生産を増やしにくい事情もあります。当社が建てた最新鋭の工場で、現行の中期経営計画の最終年度に当たる26年度にはシェア3割を目指しています。

── 昨年10月発表の中期経営計画では、26年度の売上高9000億円、営業利益480億円を掲げました。どう実現しますか。

瀧原 中計の基本方針の一つに「事業領域でトップになっているか、なり得るものに絞る」というコンセプトを掲げました。今までも、飼料や医薬品事業はトップになれないと判断してグループ外に出した一方、トップになり得る酵母事業は強化してきました。

 現状でシェアトップである国内製粉事業では、水島新工場(岡山県倉敷市)の建設、熊本製粉(熊本市)の買収などを進めており、21年度に40%だったシェアのさらなる向上を目指します。食品事業では、シェアトップであるパスタやミックス粉の市場拡大を図るほか、中食や総菜事業の売り上げ拡大も寄与します。

(構成=谷道健太・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか

A 米国の穀物サイロ会社で半年間研修し、現地の生産者とパイプを築き、その人脈を今も保っています。その後はカナダの工場にも赴任しました。帰国後は大手商社に2年出向して大豆取引を学び、34歳からは経営企画やIR(投資家向け広報)の部署に異動になって忙しく過ごしました。

Q 「好きな本」は

A 経済に関する歴史書を読みたいのですが、時間がなかなか取れていません。

Q 休日の過ごし方

A 妻と一緒に自宅に近い海岸をウオーキングしています。本当は山登りをしたいのですが、できていません。

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事業内容:製粉、加工食品などを事業群とするグループ全体の経営戦略の立案・遂行

本社所在地:東京都千代田区

創業:1900年10月

資本金:171億1700万円

従業員数:8918人(2022年3月末、連結)

業績(22年3月期、連結)

 売上高:6797億3600万円

 営業利益:294億3000万円

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 ■人物略歴

たきはら・けんじ

1966年神奈川県出身。県立光陵高校、早稲田大学政治経済学部卒。88年日清製粉(現・日清製粉グループ本社)入社。日清製粉グループ本社企画本部IR室長などを経て、2017年6月から取締役。19年6月常務を経て22年6月から現職。57歳。

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週刊エコノミスト2023年2月14日号掲載

編集長インタビュー 瀧原賢二 日清製粉グループ本社社長