路地裏再生で街を「ごきげん」に

旧三福不動産代表取締役 山居是文 2025.03.24

 増え続ける空き家・空き店舗。その活用を「路地裏マイクロデベロッパー」が手助けして、街をごきげんにする。(聞き手=位川一郎・編集部)

 神奈川県小田原市で不動産の仲介と建築を事業としていますが、扱うのは普通のマンションなどだけでなく、空き家・空き店舗を活用して、新しくお店をやってくれる人や移住する人を増やそうと活動しています。僕が生まれた小田原市は昔は活気がありましたが、だんだん寂れてきました。現状をどう変えるかを考えた時、自分では100軒、200軒のお店は展開できないので、不動産の仲介業としてお店をやりたい人を発掘すればいいと思ったんです。

 僕らは「路地裏マイクロデベロッパー」です。駅から少し離れた路地裏的な小さいエリア、小さい物件をいかに再生するかを考えています。仲介とリノベーション工事を一緒にやることで、家賃の安い物件でもある程度採算は合います。僕らの仲介で空き家・空き店舗に新しくできた店舗や事務所は、10年間で118件。JR小田原駅から徒歩15分の「宮小路」という古いスナック街は、10年前に飲食店が20軒ほどまで減っていましたが、新しく19軒のお店などのオープンを手伝いました。

自社サイトに独自情報

 空き屋・空き店舗はたくさんあっても、大家さんが貸したり売ったりしてもいいという物件は少ないんです。仏壇があるからとか、相続したけれど思い出があるからそのままにしたいとか、古いので手を入れないと貸せないとか、理由はさまざま。不動産業者としても、古い物件を生かすリノベーションより、壊して更地にしたり新築して売る方が手間もなく売り上げが大きいので、そちらに流れがちです。でも、この2、3年は空き家をどうすればいいかという相談が増えてきました。

 他社との違いは、大手の仲介サイトではなく、自社サイトに物件情報を載せて集客している点です。自社サイトでは、周辺にどんなお店があるかといった情報もたくさん載せていて、フリーペーパーや地図も含めたオウンドメディアで「小田原に引っ越せば楽しそうだ」ということを伝えたいと考えています。

 小さいころの地元の神社のお祭りはすごくにぎやかでした。お祭りの活気を取り戻すには、街にお店を増やさなければと考え、知り合いだった渡邊実とともに14年、「旧三福不動産」を設立しました。渡邊は7年間の不動産営業の経験があり、他の不動産業者とは違うことがやりたいと考えていたところでした。

 社名の「旧三福」は、地元で長年親しまれながら閉店した中華料理店「三福」の名前を借りました。社是は「不動産のフはフフフのフ」。活用できない不動産は「負動産」とも言われますが、うまく活用できれば街が豊かになると考えました。行動指針は「ごきげん時々いいかげん」です。直近の年商は3.4億円で、毎年ほぼ増収増益が続いています。

 空き家・空き店舗は日本中で増えています。リノベーションやオウンドメディアについての知見は他の地域でも生かせるので、市外へも支店を展開したいと思っています。来年には神奈川県茅ケ崎市に支店を出すつもりです。

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企業概要

事業内容:賃貸・売買不動産の仲介、リノベーションおよび注文住宅のデザイン・設計・施工・監理など

本社所在地:神奈川県小田原市

設立:2014年9月

資本金:990万円

従業員数:12人

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 ■人物略歴

やまい・よしふみ
 1978年神奈川県小田原市生まれ。東京農工大学農学部卒。小田原市役所職員などを経て東京都内で広告関連会社を設立。2014年、小田原市の中華料理店「三福」があった場所で、同市出身の渡邊実さんとともに「旧三福不動産」を設立。22年、古ビルをリノベーションし本社を移転。サッカーJ1・湘南ベルマーレの大ファン。

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週刊エコノミスト2025年4月1日号掲載

山居是文 旧三福不動産代表取締役 路地裏再生で街を「ごきげん」に