「祖業の出版」輸出に挑戦

学研ホールディングス 宮原博昭 2025.04.14

Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

「祖業の出版」輸出に挑戦

── 来年4月に創業80周年の節目を迎えます。

宮原 15年ほど前は経営危機の状況でした。よく80周年まで来られたなという思いです。今では内部留保も十分にあります。100周年を目指しての80周年ですので、しっかりやらなければいけません。

── 祖業の出版への思いをたびたび口にしていますね。

宮原 学研は『学習』という学年別学習雑誌が原点です。『科学』が古いと思われることが多いですが、実際は『科学』の方が『学習』よりも後で、売れるまでには時間がかかりました。最盛期には教育業界でも、出版社としてもトップでした。こうした原点を忘れてはいけない。自分たちがどこから来たかということです。

 介護・医療福祉事業をしていますが、「出版社がやっている医療福祉」ということで信頼されています。教室・塾もそうで、信頼して入ってもらえます。多角経営しているようですが、根っこは全部いっしょ。これからも祖業はしっかり続けていきます。

国内半分、海外半分に

── 来年から新しい中期経営計画がスタートします。どのような方針で臨みますか。

宮原 (社長に就任した)15年前の中計は教育分野と医療福祉分野で半々を目指していました。ですが、これから2035年にかけては間違いなく、国内が半分、海外が半分を目指すことになります。

── 海外が半分を目指すというのは?

宮原 日本人の出生数は年70万人を割り込む状況です。塾は5年生から、教室は年少児からが対象なので、ボディーブローという状況ではありませんが、保育園事業は厳しいです。耐え忍びながらチャレンジしていかなくてはなりません。

── 出版事業で海外を目指すと発信していますね。

宮原 一時、漫画の不況があって赤字だった大手出版社は、見事に世界で羽ばたいています。ただ、大手と比べると、うちは微妙な立場です。売り上げの規模で考えるとリスクが大きすぎます。過去には、中国やインドネシアで損失を出したこともありました。何社かでネットワークを組み、印刷、仕入れ、デジタル化、多言語化、輸出ということに挑戦できないかと考えているところです。

 世界を見ていると、版権勝負になっています。個人的な意見ですが、完成品(紙の出版物)で輸出していきたい。今は知的財産権を売っている貿易で、グッズが少し売れて、というところです。日本の出版物が世界に並ぶというところを目指していきたい。円安の時代なら、どうにかなると思います。

── 「教室・塾」事業は、もともとの子ども向けから「リスキリング」まで幅広い世代が対象へと広がっています。

宮原 公教育で分からなかった子どもが、塾に来て分かるということがあります。教え方が丁寧で、日本のホテルや飲食店のおもてなしと同じです。(学校教育を離れた後も学び続ける)「リカレント教育」「リスキリング」はやれると思います。

── 医療福祉分野は、業績回復のけん引役になりましたね。

宮原 建築資材の高騰、エネルギー価格の上昇で、業界全体では新築数が減ってきていますが、当社グループはハイペースで作っています。新設しても人手不足で従業員が集まらないというところはありますが、「出版社の学研がやっている施設」ということで、他社よりも人材確保がスムーズです。

 一方、中国や韓国では高齢化が日本を超えるようなペースで進んでいます。教育に続き、介護は第二の矢として海外展開を準備しています。中国では介護施設を11棟営業しています。

── 富裕層がターゲットになるのでしょうか。

宮原 そうですね。中国で進めているのは、デべロッパーが開発したレジデンスのような老人ホームです。日本では歩行が困難な方は、できるだけ車椅子に乗せず、筋力を保って歩けるように支援しますが、中国では逆に車椅子で快適に過ごすのが当たり前です。その違いがトラブルになり、「なぜ立たせるのか」と息子さん、娘さんに言われたこともあります。でも、日本の「日式介護」は丁寧で評価され始めています。

── 認知症グループホーム事業が成長を続けていますね。

宮原 認知症は5人に1人がなるといわれており、押さえておかなければいけない事業です。緩和ケアの中でも、看取(みと)りまでやるというところが特徴です。看取ると訴訟になることもあり、他ではあまり多くありません。うちでは事前に入居者、家族としっかり打ち合わせており、「病院で管だらけで最期を迎える」ということではなく、施設での看取りに取り組んでいます。入居者からは、とても評価されています。

(構成=安藤大介・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 社長就任の直後です。経営が厳しい中で引き継ぎ、最初の3年間は3時間寝ることすらできませんでした。銀行にも毎月のように呼び出されていました。

Q 最近買ったものは

A 白檀(びゃくだん)のお香です。落ち着ける香りが好きで、財布や手帳などに入れています。

Q 時間があればしたいこと

A ロッククライミングです。登山は好きですが、岩山に登ったことがありません。社長をしている間は難しいですね。登山は頂上に着いた達成感があります。登る間に考える時間がたくさんあるのもいいですね。

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事業内容:出版、教育サービス、医療福祉事業など

本社所在地:東京都品川区

設立:1947年3月

資本金:198億1700万円

従業員数:2万9184人(2024年9月末現在、連結)

業績(24年9月期、連結)

 売上高:1855億円

 営業利益:68億円

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 ■人物略歴

みやはら・ひろあき

 1959年広島県出身。私立白陵高校卒業。82年防衛大学校卒業。貿易会社を経て86年学習研究社(現学研ホールディングス)入社。2009年学研ホールディングス取締役、10年から現職。65歳。

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週刊エコノミスト2025年4月22日号掲載

編集長インタビュー 宮原博昭 学研ホールディングス社長