ごまの価値を極限へ高め、世界に貢献
かどや製油 北川淳一 2025.08.04
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)
ごまの価値を極限へ高め、世界に貢献
── 真ん中がくびれたごま油の容器は食卓の「常連」です。商品のラインアップを紹介ください。
北川 主力のロングセラー「金印純正ごま油」のほか、いりごま・すりごまといった「食品ごま」、ラー油などをそろえ、家庭用ごま油では売り上げナンバーワンをキープしています。ごま油は焙煎(ばいせん)の程度で分けられます。焙煎したものは薄口から濃い口まであり、料理に応じて使用いただけます。焙煎していない「太白ごま油」も人気です。風味は強くありませんが口当たりはまろやかで、どんな料理にも合うのが特徴です。
── 主な製造工程は?
北川 ごまは中南米やアフリカなどから輸入しています。きれいに洗って脱水した後、一定の温度と時間をかけて焙煎し、蒸気をかけて煮たうえで丁寧にゆっくり油を搾り出します。さらにろ過などの作業を経て家庭にお届けしています。主力工場は瀬戸内海の小豆島(香川県)で、千葉県袖ケ浦市にも工場があります。
── 商品の強みは?
北川 ごま油とされるものの中には、菜種油などをブレンドした低価格な「調合ごま油」などもありますが、当社の商品はごま油100%の「純正ごま油」で風味は全く異なります。何重もの検査をクリアした良質なごまだけを使っているため香りや味がよく、栄養価が高いのが特徴です。
技術力も強みです。ごま油の製造では産地が異なるごまをどう配分するのか、焙煎の温度や時間をどう設定するのか──など職人芸的な技術が求められます。当社は江戸時代の安政5(1858)年に小豆島で創業して以来、ごま一筋で培った技術が誇りです。昔も今も変わらない味や香りを食卓に提供しています。
── 社長は三菱商事出身で、前社長の久米敦司会長(三井物産出身)とともに商社出身による代表取締役2人体制となりました。
北川 当社の株主構成は、三菱商事27%、三井物産22%、小沢物産・小沢商事が計16%──などです。ツートップ体制により、商社2社のリソースやネットワークを存分に利用させていただくことが可能になります。当社の企業価値の向上とともに、株主にも望ましい状態になると考えています。
── 経営方針は?
北川 (顧客の支持を基礎に企業価値を向上させる)ファンベース経営を実践します。もっと個人の方に「かどやのごま油」のファンになってもらい、強いブランドをともに築き上げていきたい。4月には社長直轄の「ブランドマーケティング部」を新設しました。お客様や、工場がある小豆島や袖ケ浦の皆さん、株主や原料を栽培してくださる農家など全ての方々にファンになっていただき、ブランド力を強化していきます。
また「研究開発本部」も新設しました。ごまの搾りかすには良質なたんぱく質が含まれています。世界では人口増などでたんぱく質の摂取量が減る「たんぱく質危機」が指摘される中、食品素材としての有効活用を検討しています。ごまの価値を極限まで高め、世界に貢献していく方針です。
米国市場をさらに開拓
── 海外展開については?
北川 2024年度の海外ごま油の売上高は86億円で、ごま油の売り上げ全体の29%に達しています。約10年前に比べれば比率は2倍以上に拡大しています。輸出の9割は米国で、日本食や韓国食が現地に根付いていることが背景にあるとみています。特にカリフォルニアを中心にファンが着実に増えています。日本とともに米国を「マザーマーケット」(最重要地域)とし、100%子会社の現地法人「米国かどや製油」(仮称)を今年度中をめどに設置し、現地での顧客開拓をさらに進めます。
── 勝算は?
北川 しょうゆが国境を越えた調味料としてグローバル化に成功したように、ごま油にもその余地は十分あります。日米の人口は計約5億人で、その1割に当たる5000万人が小さじ1杯(約5グラム)のごま油を週2回使えば年間約2・6万トンの消費になります。当社のごま油販売量は約2・8万トンで、それに匹敵する市場を創造できるポテンシャルがあります。
── 現地生産などの選択は?
北川 マザーマーケットである米国で工場を設立して商品を製造、販売するということは、どこかのタイミングではチャレンジしていくことになると考えています。
── 新たな需要の掘り起こしに向けた具体策は?
北川 韓国料理や中華料理に合うごま油ですが、洋食に合う新しい商品の開発にも取り組んでいます。食材に「ちょい足し」すればさらに味わいが広がるのもごま油の魅力です。例えばバニラのアイスクリームや唐揚げ、ピザにちょっと足すだけで「味変」が楽しめます。味わいとともに健康にもいい、というごま油の魅力をさまざまな機会で伝えていきます。
(構成=中西拓司・編集部)
横顔
Q 30代はどんなビジネスパーソンでしたか
A 三菱商事に入社以降、ごまの原料輸入などを担当してきました。30代には米国のごま関連のスタートアップを買収し、最高経営責任者(CEO)を務めました。
Q 「好きな本」は
A 佐藤航陽(かつあき)さんの『未来に先回りする思考法』です。社会変化の予想は実は難しいことではないものの、過去の経験などのバイアスによって打ち手を間違えることがある、ということがわかりやすく説明されており、非常に印象に残っています。
Q 休日の過ごし方
A 最近はゴルフです。
====================
事業内容:ごま油、食品用ごま製品の製造・販売
本社所在地:東京都品川区
創業:1858年
資本金:21億6000万円
従業員数:418人(2025年3月31日時点)
業績(25年3月期、連結)
売上高:394億円
営業利益:31億円
====================
■人物略歴
きたがわ・じゅんいち
1972年生まれ。東京都出身。90年慶応義塾高校卒業。94年慶応義塾大学法学部卒業後、三菱商事入社。同社油脂部・総務部兼経営企画部(社長業務秘書)などを経て、2024年かどや製油執行役員社長付。同年執行役員経営企画部長を経て25年4月から現職。53歳。
====================
週刊エコノミスト2025年8月12・19日合併号掲載
編集長インタビュー 北川淳一 かどや製油社長