成長分野のデジタル広告に強み
マテリアルグループ 青﨑曹 2025.03.03
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)
成長分野のデジタル広告に強み
── 事業の柱は何ですか。
青﨑 中核事業は企業と社会の間を取り持って合意を形成するパブリックリレーションズ(PR)のコンサルティング事業です。PR会社の大半はクライアントの広報部に対する業務支援をしていますが、当社が得意とするのはPRの考えをもった広告・宣伝をお手伝いすることです。今までテレビCMに巨額の予算を投じていた企業の間で、効果がより高い別の手法、例えば従来の広告ではない手法で自社ブランドについての情報を生活者に届けたいという変化があり、当社にとっては追い風になっています。
── 従来の広告ではない手法にはどんなものがありますか。
青﨑 若年層への情報発信はSNS(交流サイト)や「縦型動画」のほうがテレビCMより効率がいいと思います。縦型動画というのは、「インスタグラム」「ティックトック」「ユーチューブショート」「LINE VOOM(ラインブーム)」といったスマートフォン向けのプラットフォームに最適化した動画のことです。昨年12月には中核子会社「マテリアル」がこれらのプラットフォームを利用して「縦型ショートドラマ」を企画・制作するサービスを始めました。短いドラマの中でクライアントの商品を紹介する動画です。クライアントに多い業種は飲食料品や通信、衣料品、化粧品など消費者になじみ深い大企業が大半を占めています。
── 連結子会社はどんな事業を手掛けていますか。
青﨑 PRコンサルティング事業には「マテリアル」、外資系企業や外国大使館をクライアントとする「キャンドルウィック」があり、デジタルマーケティング事業にはデジタル広告の運用支援などをする「マテリアルデジタル」があります。デジタル広告にはユーチューブなどのSNSプラットフォームのほか、検索連動型広告があります。
企業のマーケティング活動の観点で見ると、消費者に自社商品を知ってもらうためのPRと買ってもらうためのマーケティングは地続きでつながっています。しかし、PRコンサルティングを担う会社と広告代理店は分業しているのが普通です。当社は両サービスをワンストップで提供することで価値を高めていると考えています。
── 創業の経緯は。
青﨑 2005年、出版社出身の東義和氏が「テレビPR」の会社としてマテリアルを創業しました。クライアントの商品に関するエピソードや開発を巡るストーリーをテレビ局の制作サイドに提案し、番組で取り上げるよう働きかけるサービスのことです。私自身は3人目の社員として11年に入社しました。入社後に成長が続き、19年には東氏が投資ファンドのアドバンテッジパートナーズに持ち株を譲渡し、そのタイミングで私がグループCEOに就任しました。他社を買収するなどして業容を拡大し、24年3月に東証グロース市場に上場しています。
── 上場の狙いは。
青﨑 まだまだ若い会社であり、人材の確保が最重要な経営課題と考えており、これには上場はプラスです。また、大手企業は信頼性が高い企業を選ぶことから、上場は必要でした。上場してからちょうど1年たち、劇的な変化を感じています。案件の引き合いが増え、人材に関してもエントリー数が上場前の年6000人ほどから約9000人になり、厳選採用できています。社員数は昨年8月末現在、282人で、25年8月期中に300人を超す見込みです。4月に入社予定の新卒者は今までで最も多い34人となっています。
M&Aに力を入れていく
── 24年8月期は売上高、営業利益ともに前年同期比13%増と好調でした。けん引役は何ですか。
青﨑 市場の変化が大きいと思います。企業の広告・宣伝費の使い方が変わってきています。デジタル広告の存在感が高まる中、自らのブランドをどう世の中に示すかという時、相談相手として当社が選ばれるようになってきました。それに加えて供給体制も強化していることから成長できています。
── 今後の経営戦略は。
青﨑 25年8月期の事業セグメント別の売上高構成比は中核事業のPRコンサルティング事業が85%、デジタルマーケティング事業が11%と予想しています。PRコンサルティング事業は今後もまだまだ成長できると考えています。デジタルマーケティング事業については、PRとデジタルを真に融合できている会社は日本にはまだないと思いますので、この事業に力を入れることで中核事業に近づけていけると期待しています。これまで5期でM&A(企業の合併・買収)を6件しましたが、今後もクライアントのニーズに合わせて機能を補完していきます。分散化したPR業界には経営統合の機会は多いとみられ、グループ全体で成長を続けていきたいと考えています。
(構成=谷道健太・編集部)
横顔
Q 仕事でピンチだったことは
A 2019年にCEOに就任し、第一子が誕生しました。責任のある立場と親としての責任が一気にのしかかってきて、妻に大変迷惑をかけたのがピンチでした。
Q 「好きな本」は
A バランスシートの感覚をもって経営することの重要性を説く朝倉祐介『ファイナンス思考』(ダイヤモンド社)です。
Q 休日の過ごし方
A 自転車の前後に子ども2人を乗せ、約15キロ走ったりしています。
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事業内容:マーケティングコミュニケーション
本社所在地:東京都港区
創業:2014年8月
資本金:1億円
従業員数:282人(2024年8月31日、連結)
業績(24年8月期、連結)
売上高:52億円
営業利益:8億円
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■人物略歴
あおさき・そう
1987年東京都出身。2006年日本大学鶴ケ丘高校卒。10年日本大学商学部卒業後、Coach Japan(現タペストリー・ジャパン)入社。11年マテリアル入社、13年取締役、19年マテリアルグループ代表取締役CEO。37歳。
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週刊エコノミスト2025年3月11日号掲載
編集長インタビュー 青﨑曹 マテリアルグループCEO