「セルフ透析」で治療と仕事を両立

alba lab代表取締役 櫻堂渉 2025.08.04

 透析患者がQOL(生活の質)を高めて治療と仕事を両立できるよう、「セルフ透析」に取り組む施設がある。医療システム変革のチャレンジだ。(聞き手=位川一郎・編集部)

 日本の透析医療は50年間ぐらい進化していません。医療技術は進歩していますが、システムが全然変わっていないんです。週3回4時間ずつの透析を死ぬまで続ける苦行。その間に体調が悪くなる方が多くいます。

 私はもともと透析専門のコンサルタントで、病院の経営支援などをしていました。当時、「日本の透析は世界一」と言われていましたが、ある時、腎移植に成功した元透析患者の知人が「僕はブロイラーのようだった」と苦しそうに話すのを聞きました。パジャマに着替えてベッドで4時間天井を見るだけの、檻(おり)に閉じ込められたような状態を表現したのだと思います。

 医療機関と患者さんの言うことが違うと違和感を持ち、海外を視察したところ、患者さんの元気さに驚きました。特にフランスの施設では、患者さんがふらっと来て自分で透析しながら食事したりパソコンに向かったりと、すごく自由な雰囲気でした。施設中心ではなく患者中心のシステムを日本でも作れないかと思ったことが、現在のセルフ透析につながりました。

 我々がプロデュースした田端駅前クリニック(東京都北区)では、2020年からセルフ透析を行っています。平均約1カ月、専任医療スタッフによるトレーニングを経て、患者さん自身が医療者に見守られながら自分で透析治療を行います。これが生活に自立を生み、生活スタイルに合わせた透析予約が取れる仕組みと、透析中も仕事がしやすい環境とが合わさり、「普通の生活」に近い日常を創造できます。

 通常、透析の患者さんは時間の制約で仕事との両立が難しい場合が多いんですが、うちのセルフ透析の患者さんは大半が透析中に仕事をしています。

元気になり、人生を取り戻す

 理論的に、透析はたくさんやるほど体調が良くなるとされています。ところが、公的医療保険でカバーされるのは月14回までなので、週3回4時間ずつの施設が一般的です。一方、我々のセルフ透析は週4回で5時間以上という患者さんが多いんです。十分な透析時間と回数を提供し、患者さんが健康と自立によって「普通の生活」に近づくサポートにチャレンジしています。

 そうすると、患者さんはどんどん元気になります。歩けなかった人が歩けるようになったり、スポーツを始めたり。会社に復帰するだけでなく自分で起業した人もいます。患者さんが自立して社会に復帰し、人生を取り戻すのを後押しすることが使命感になっています。

 セルフ透析の患者数は順調に増えていて、現在40人。平均年齢は55歳です。今後、パートナーの医療機関と共にセルフ透析の施設を増やしていこうとしているところです。

 現在、日本でセルフ透析ができるのはまだここだけ。医療界に、50年間続いてきたやり方を変えようというモチベーションが働かないんです。しかし、患者さんが元気になれば、体調の悪化で他の病院に入院する人が減るので、透析医療機関も収入を維持できます。これからはセルフ透析がすごく増えていくでしょう。

====================

企業概要

事業内容:医療ソーシャルビジネス、医療経営及び組織運営・管理に関する教育事業など

本社所在地:東京都北区

設立:2006年9月

資本金:500万円

従業員数:18人

====================

 ■人物略歴

さくらどう・わたる
 1957年神奈川県生まれ。慶応義塾大学大学院経営管理研究科経営学修士取得。外資系企業で透析専門のコンサルティングに携わった後、2006年、病院マネジメントを行う「alba lab(アルバラボ)株式会社」を設立。08年、「田端駅前クリニック」開設。20年、同クリニックに日本初のセルフ透析施設を開設。24年、セルフ透析の仕組みがグッドデザイン賞を受賞。

====================

週刊エコノミスト2025年8月12・19日合併号掲載

櫻堂渉 alba lab代表取締役 「セルフ透析」で治療と仕事を両立