個人の知見を企業や社会とつなぐ
ビザスク 端羽英子 2025.12.15
Interviewer 清水憲司(本誌編集長)
個人の知見を企業や社会とつなぐ
── ナレッジプラットフォームという事業を展開しています。
端羽 「知見と、挑戦をつなぐ」が当社のミッションです。さまざまな業界や業務について知見を持つ個人の方々と、新しい領域に挑戦するために新たな知見を必要とする企業をマッチングしています。具体的には1時間のインタビューという形でつないでいて、エキスパートにアドバイスをもらったり、想定顧客が感じる課題やニーズを聞き取ったりします。
そうしたプロジェクトの「調査」のためのマッチングから「実行」を目的とする業務委託やフルタイム雇用のマッチングへと事業を拡大してきました。現在、国内20万人超、海外50万人超のエキスパートに登録していただいています。
── 活用例を教えてください。
端羽 大きく分けて二つあります。一つはコンサルティング会社や機関投資家などです。調査のプロとして、エキスパートから1次情報を入手するという調査手法に価値を感じていただいています。もう一つは新しい領域に挑戦する事業会社。新規事業開発や自社技術の用途開発のほか、既存事業でも新たな顧客を探索するマーケティングや営業企画といったところで活用いただいています。
── 立ち上げのきっかけは。
端羽 実は起業するとき、全く違う事業を考えていました。個人が自分の経験に基づいてお薦めをする通販プラットフォーム事業を発案し、自分では「いける」と思っていました。ところが、この領域のエキスパートに相談したところ、1時間にわたってめちゃくちゃダメ出しされました。このダメ出しがとても勉強になり、こうした学びとそれを必要とする人とを結びたいと考えました。
個人のエンパワーメントにも強い関心がありました。アップル創業者、スティーブ・ジョブズ氏の「コネクティング・ドッツ」(点と点をつなぐ)というストーリーがとても好きです。目の前に面白いことがあったらチャレンジしよう、いつか振り返ったらその経験の点と点がつながっていると。これを社会規模で実現できれば、チャレンジする人が増え、すごく面白い未来が作れる。もしかして自分の経験につながらなかったとしても誰かの何かにつながるかもしれない。ビザスクではずっとこれに取り組んでいる気持ちです。
競争の最前線に立つ
── 上場からわずか1年後の2021年に米国企業を約110億円で買収しました。ここまでは業績の重しになっています。
端羽 知見のマッチングという事業領域を決めた時点で、日本人同士のマッチングだけでなく海外に出ることは当然と考えていました。振り返って「もっとうまくできた部分はなかったか」と思うところはありますが、この挑戦を後悔したことはありません。知見マッチングの最先端は米国にあり、海外の競合に勝ち続けるには競争の最前線に立つことが必要です。海外事業のどこを改善するべきか解像度は上がっているので、あとは実行あるのみです。
── 最近は株価が低迷しています。グロース市場改革では、2030年以降、上場維持のために時価総額100億円以上が求められます。
端羽 海外事業の改善は実行段階にあるので、短期の株価を気にするというより、しっかり事業成長に必要な施策を進めていきたいと考えています。当社のサービスはマーケットプレースなので、個人と企業の両方に厚みがあることが重要です。当社がどうなりたいか一言で言えば、大きくなることによって、より良いマッチングを可能にしたい。それが実現できれば株価もついてきます。
── 生成AI(人工知能)の活用はどのように考えていますか。
端羽 AIの利用拡大に伴いインタビューの価値は高まっていきます。あるレベルまでの情報、均質化された情報はAIで収集しやすくなった中で、企業はそれを超える部分で差別化を図っていかないといけません。インターネットでも書籍でも論文でもまだ言語化されていない、変化の芽吹きのような情報を得られる手法がインタビューなのです。AIでマッチングの精度も上げていきます。
── 女性起業家はまだ珍しい存在です。
端羽 起業家として女性であることはどちらかと言えばプラスだったと感じます。覚えてもらいやすく、チャンスをいただきやすかった。しかし、それ以前に自分は社会人として自信をつけさせてもらったから「起業できるのではないか」と思えた。それは先輩方が道を作ってくれたからです。2社目に働いた日本ロレアルでは活躍する女性の先輩がたくさんいたからでしょう、乳飲み子を抱える私を採用してくれ、チャンスをもらえた。退職するときも「戻ってきたくなったら戻ってきていいよ」と言ってもらえた。そんなふうに言える自分でありたいです。
横顔
Q ピンチだったこと
A 毎回新しいチャレンジの連続です。それを乗り越えていくことに幸せを感じます。
Q 「好きな本」は
A 『イシューからはじめよ』(安宅和人著、英治出版)です。どんなチャレンジであっても問題を分解していくことで解決していけると思えます。
Q 休日の過ごし方は
A 茶道にハマっています。起業にはスピードも大事なので雑になってしまうときもある。茶道は感謝の心や一期一会が大切ですから謙虚な気持ちになれます。起業家にお薦めしたい趣味です。
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事業内容:知見プラットフォーム事業
本社所在地:東京都目黒区
創業:2012年3月
資本金:4億7918万円
従業員数:497人
業績(25年2月期、連結)
売上高:97億8095万円
営業利益:12億2732万円
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■人物略歴
はしば・えいこ
1978年生まれ、県立熊本高校、東京大学経済学部卒業。2001年ゴールドマン・サックス証券入社。日本ロレアル、ユニゾン・キャピタルを経て12年3月に創業して現職。熊本県出身、47歳。
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週刊エコノミスト2025年12月23日号掲載
編集長インタビュー 端羽英子 ビザスクCEO
