「オフィスでアート」広げる
NOMAL共同創業者 平山美聡 2025.12.01
「オフィスでアート」を当たり前の風景に。日本でなじみが薄かった壁画制作をビジネスとして成功させた。(聞き手=位川一郎・編集部)
「Hello ART!」を掲げて、アーティストと働く人が近くなる世の中を目指しています。主にオフィスや公共空間での壁画制作事業を展開し、アート通販事業もやっています。
壁画制作は全部公開されるので、できていく過程を多くの人が見て、アーティストとのコミュニケーションも取れるのが特徴です。これまでの案件は、NEC、メタ日本法人、国土交通省、JR東日本など首都圏を中心に200件以上。順調に増えていて、今は月10件ほど手がけています。声かけできるアーティストは300人以上になりました。今期(2025年12月期)はアート事業で売上高2億円を目指しています。
プロジェクトの一例を挙げると、NEC玉川事業場(川崎市)では、3組のアーティストと30人の社員がチームに分かれ、三つの壁画を作りました。半年ぐらいかけてアーティストと社員がワークショップを重ね、NECのどんな側面をアートにしたいかや、アーティストのスタンスについて話し合いながら進めました。「参加して良かった」「自社への印象が変わった」などの声が多く、個展を見に行くなどの交流が今も続いているそうです。

屋外の例では、昨年から西武鉄道の駅のホームなどに壁画を作る取り組みをしていて、駅や地域の魅力を利用客に伝えています。東京・下北沢では京王電鉄所有の壁面をマネジメントし、企業をスポンサーにつけての壁画制作などで定期的に絵が入れ替わるようにしています。
コロナ禍が転機に
オフィスの壁画が増えてきたのは、コロナ禍がすごく大きかったと思います。当時リモート勤務が広がりましたが、会社にも来てほしいというニーズが経営者にはあり、そこにマッチしたのでしょう。オフィスのアートには自社らしさを感じさせる唯一無二のシンボル性があり、コミュニケーションの場にもなります。
小さいころから絵を描くのが好きでした。資生堂在職中に友人の松本(祥太郎・NOMAL代表取締役)から強く誘われ、2人でNOMALを創業しました。アート事業のきっかけは、退職前に1カ月間サンフランシスコに旅行したことです。絵画が日常的にいろんなところで売られているのを目の当たりにし、当時日本にほとんどなかった絵画の通販サイトを始めました。
でも、興味のある人しか買いに来ず赤字続き。BtoB(企業向け)のビジネスも必要と考えました。自分がオフィスで働いていた時に、壁画やアートがあればいいなと思ったことを思い出し、壁画事業を始めました。
私たちは「アート」と「アートじゃない」の溝を埋めたいと考えています。今後は屋外の壁画を増やし、興味のない人も自然とアートに触れるシーンを増やしたい。屋外の壁画は広告と見なされ壁の10分の3までしか描けないなどの規制があるんですが、緩和してほしいですね。
もう一つ、家賃が高い東京都内で、オフィスの空きスペースをアーティストのアトリエとして開放してもらえないか、と営業を始めています。アーティストとの自然な関わりは、働く人にとっていい影響があるだろうと思います。
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企業概要
事業内容:壁画・アート広告の企画・制作などアート事業/オウンドメディア「出囃子」の運営などエンターテインメント事業/採用コンサルティングなどHR事業ほか
本社所在地:東京都中野区
設立:2015年7月
資本金:500万円
従業員数:15人
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■人物略歴
ひらやま・みさと
1988年東京都生まれ。慶応義塾大学環境情報学部卒。資生堂に入社後、営業や広報担当を経て、大学時代の友人の松本祥太郎氏とともにNOMALを設立。2016年にアート通販を開始。18年オフィスの壁画制作事業をスタート。壁画制作などアート事業の名称は「NOMAL ART COMPANY」。
オフィス空間構築を手がける「リリカラ」の日比谷オフィスで。壁画は2人組のアーティスト「Gravityfree」が手がけ、社員もワークショップに参加した
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週刊エコノミスト2025年12月9日・12月16日合併号掲載
平山美聡 NOMAL共同創業者 「オフィスでアート」広げる
