建設現場にITを浸透させる

アンドパッド代表取締役社長 稲田武夫 2023.07.24

 建設工事は膨大な事務作業を伴う仕事でもある。この業界のIT化を進めることで急成長しているのがアンドパッドだ。

(聞き手=和田肇・編集部)

 ひと口に建築工事といっても、現場ではさまざまな業種、職種の人たちが集まって、一つの建築物を作っていきます。私たちはそうした人たちのための業務アプリケーションを販売しています。建設の仕事は、施工管理、図面・見積書作成、受発注、検査・確認など、事務的作業の比率が意外に高いんです。

 例えば、工事中や終了後に状況確認や検査のために写真を撮影するのですが、その数は中小規模の工事でも何千枚、大きなものでは何万枚にも及びます。これを整理・分類するだけでも、かなりの労力が必要になる。私たちのアプリを使えば、スマートフォンやタブレットで撮影するだけで、自動的に分類できます。

 アプリで利用できる機能は、施工管理(工程表など)、チャット、図面確認・書き込み、検査項目・進捗(しんちょく)状況、ボード機能、受発注、黒板機能(写真整理)、コスト管理などです。アプリを使えるIDも、1000個取得する会社もあれば、500個の会社もあります。購入した会社はそのIDを、工事に参加する人たち、現場監督や職人さんに配布し、アプリを利用してもらいます。

 このアプリを建設会社などに販売しており、料金体系は初期費用と月額費用、オプション費用で構成しています。業務形態などによって必要な機能も異なるため、要望に合わせて最適なプランを提案します。16年にサービスを開始して、今までに約15万社、42万人に利用いただいています。

122億円の資金調達実施

 大学生の時に学生インターンをサポートする会社を友人と作ったことがあります。2008年に卒業後はリクルートに入り、建設とは全く縁のない仕事をしながら、起業したいという考えは持ち続けていました。在職中からITエンジニアの人たちとかかわり、リクルートに在籍しながら11年に会社を設立して、リフォーム会社の比較サイトなどを開発していました。

 起業への決意が固まった14年、リクルートを退社し、IT化があまり進んでいない業界で便利なサービスを作ろうと考えました。そこで、リフォーム情報のサイトを作ったりしているうちに、建築業界のことが徐々に分かるようになり、建築に携わる人の現場の声をいろいろと聞くようになりました。現場の人がもっと効率的に仕事ができるように、このアプリを開発したわけです。

 昨年9月には日本政策投資銀行や海外の機関投資家などから、総額122億円の資金を調達しました。事業への期待の表れと感じています。今後は、建物以外の土木工事向けや外国人も利用できるアプリの開発にも挑戦していきたいですね。建設の仕事でIT化が進み、効率的になれば、人手不足の建設業界に人材が入りやすくなるのではないでしょうか。

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企業概要

事業内容:建設関連の施工管理アプリケーションなどの開発・販売

本社所在地:東京都千代田区

設立:2011年9月

資本金:108億9209万円(資本準備金含む)

従業員数:606人(2023年4月1日時点)

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 ■人物略歴

いなだ・たけお

 1984年神奈川県生まれ。高校時代はハンドボール選手。2008年慶応義塾大学経済学部卒業後、リクルート入社。2011年アンドパッドの前身の会社設立。当初は住宅リフォームの情報サイトなどを運営していたが、建設工事関係者向けのアプリケーションを開発し急成長。今年6月に政府の「日本スタートアップ大賞2023」で国土交通大臣賞を受賞。38歳。

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週刊エコノミスト2023年8月1日号掲載

稲田武夫 アンドパッド代表取締役社長 建設現場にITを浸透させる