患者に届ける治験情報
バズリーチ代表取締役CEO 猪川崇輝 2022.12.02新薬誕生にかかる期間は平均10年以上。一日でも早く治療の選択肢を増やすべく、テクノロジーによる工程の効率化に取り組んでいる。
(聞き手=加藤結花・編集部)
治験を含む臨床試験・臨床研究に関わる業務効率化プラットフォームシステムを開発・販売しています。治験とは新しい薬や治療法として承認を得るために必要な臨床試験で、効果や安全性、治療法などを確認するためになくてはならないプロセスです。しかし、新薬の開発には平均10~15年、1000億円程度の開発費を要するといわれ、非常に時間もお金もかかる工程になっています。この開発にかかる時間を短縮できれば、新しい薬を心待ちにする患者・家族、医療関係者に新薬を届けることができ、莫大(ばくだい)なコストをかけて開発している製薬企業には利益の改善が見込める。新しい治療の選択肢を一日でも早く患者に届けるため、テクノロジーの力で治験期間の短縮を支援する、というのが私たちの事業の狙いです。
治験には、計画の立案から、実際に新薬・新しい治療法として承認されるまで、多くのプロセスがあります。この全ての過程で、私たちのシステムを活用してもらい業務の効率化につなげ、まずは1年の治験期間の短縮、中長期的に5年の短縮の実現を目指しています。
その第一歩として、創業期から注力しているのが治験の課題の一つである、被験者の募集です。情報を必要とする患者や医師に情報が十分に届いていないのが現状で、約7割の治験で参加する患者が足りません。そこで、当社のプラットフォームシステム「puzz(パズ)」で、製薬企業が治験情報を発信できる機能を開発しました。
製薬企業が当社のサービスを利用して被験者募集の情報を登録し、患者や医師が情報を閲覧する仕組みで、治験募集のプロジェクト1案件につき月額40万円程度の登録料と成功報酬が製薬企業に発生するビジネスモデルです。
このサービスを通じて治験に参加した患者は2000症例以上、250以上の治験に及びます。特に活発に利用されているのが、医師による募集情報の利用です。製薬企業が登録した治験情報を医師が確認し、対象と思われる自分の患者に対して、治療の選択肢の一つとして紹介しています。医師が別の医師、医療機関に患者を紹介する場合、診療情報提供書という書類を作成する必要がありますが、当社のシステム内ではデータ上で書類の作成もできるため、スムーズな紹介が可能です。
グローバル9兆円市場
元々、医療に興味があったわけではないのですが、前職で治験に関する仕事をする中で現場に多くの課題があること、そしてそれがテクノロジーの力で解決できることがある、と知って起業しました。日本の治験のマーケットは8000億円ほど、グローバルでは9兆円ともいわれる非常に大きな市場です。最近では、米グーグルが治験分野のシステム開発に取り組んでいることが話題になりました。
将来性が見込め、社会的価値のある事業だという自信があるので、テクノロジーの力を駆使して業界の縁の下の力持ちを目指してこれからも成長を続けていきたいです。
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企業概要
事業内容:臨床研究に関わる業務効率化プラットフォームシステム開発など
本社所在地:東京都港区
設立:2017年6月
資本金:約8億9000万円(資本準備金含む)
従業員数:54人
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■人物略歴
いのかわ・たかてる
1980年長崎県生まれ。学生時代は、デザイン、インテリア、建築を学ぶ。 ロゴや名刺のデザイナーなどを経て、2005年治験被験者募集専門会社のクリニカルトライアル(現エムスリーグループ)の立ち上げから参画。09年製薬企業向けの治験広告を専門とするクロエ(同)を経て、17年5月に独立し、同年6月バズリーチを設立した。
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週刊エコノミスト2022年12月13日号掲載
猪川崇輝 バズリーチ代表取締役CEO 患者に届ける治験情報