内視鏡画像のAI診断で、医療ミスを根絶へ

AIメディカルサービス代表取締役CEO 多田智裕 2024.04.01

 AIを使い、内視鏡の診断ミスを低減する装置を開発している。(聞き手=稲留正英・編集部)

 内視鏡の診断画像について、AI(人工知脳)を使って、がんの疑いのある病変部分を検出し、医師の診断を補助するソフトウエアと装置を開発しています。

 胃がん、食道がん、大腸がんという消化器系のがんは、日本のみならず、世界の人々の死亡原因の上位です。そして、これらのがんは、内視鏡検査でしか早期発見できません。ですが、これまでは、人の目で病変部を判断しているので、内視鏡検査をしても、しっかりと診断されない事例が頻発しています。医師の技量の個人差も大きいのですが、早期のがんであれば、大体2割前後が見逃されているとされます。

 しかし、当社の画像診断AIは、国内外の100施設以上の医療機関から、20万本以上の世界最高水準の早期がんなどのハイビジョン動画を提供してもらい、その画像を機械学習しています。これは、普通の医師が、人生を3回繰り返しても覚え切れないくらいのデータ量です。このデータを覚えたAIが医師と一緒にがんを探すことにより、がんの見逃しは半減、究極的にはゼロにできます。米国では年間80万人が医療ミスで命を落としているとされます。AIを使った医療機器は、医療の誤診断、医療ミスを根絶するプロダクトだと思っています。

 使い方は極めて簡単です。ハイビジョン画像を送受信するためのSDIケーブルで内視鏡装置と当社の画像診断AIソフトをインストールした汎用(はんよう)パソコンをつなぐだけです。AIががんの疑いのある病変部を発見した場合は、画面に「Consider biopsy(生検を検討すべし)」というメッセージが表示されます。それ以外の場合は、「Low Confidence(それ以外)」と表示されます。接続できる内視鏡メーカーは、オリンパスと富士フイルムで、これにより、国内の内視鏡装置の99%がカバーできます。

利用料金は340万円

 サービスの利用料金は合計で340万円。初期費用が100万円で、年額240万円の利用料をいただいています。利用料の中には、AIの診断精度が高まった場合のソフトウエアのアップデートや機能拡張の費用も含まれています。

 日本では、昨年12月に厚生労働大臣から医療機器としての薬事承認を得て、今年3月から販売を開始しました。当初の適用部位は胃がんだけですが、今後は、大腸がん、食道がんと適用範囲を拡大していく予定です。海外では2月にシンガポールで薬事承認を得ており、シンガポールを拠点に全アジアに販売していきます。

 日本で開発され、発展してきた内視鏡は、日本のお家芸です。今回のAI診断装置も過去70年間、日本の内視鏡医師が積み重ねてきた質量ともに最高水準の内視鏡画像データがあったからこそです。

 また、私はAIを使った医療機器で日本を元気にしたいと、2019年に業界団体「AI医療機器協議会」を設立しました。今、加盟は30社くらいまで増えています。政府に規制緩和を働き掛けたりなどして、業界全体を盛り上げていきたいと考えています。

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企業概要

事業内容:内視鏡の画像診断支援AIの開発

本社所在地:東京都豊島区

設立:2017年9月

資本金:138億円(資本準備金含む)

従業員数:105人

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 ■人物略歴

ただ・ともひろ

 1971年東京都出身、96年東京大学医学部卒業、2005年同大学院医学系研究科博士課程修了、06年ただともひろ胃腸科肛門科を開業、17年AIメディカルサービスを設立、代表取締役CEOに就任

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週刊エコノミスト2024年4月9日号掲載

多田智裕 AIメディカルサービス代表取締役CEO 内視鏡画像のAI診断で、医療ミス根絶へ