蓄電池の国産化で再エネ導入を加速

パワーエックス社長 伊藤正裕 2023.04.24

 再エネで発電した電気をためる蓄電池を国産化。再エネの爆発的な普及を後押しする。

(聞き手=稲留正英・編集部)

「永遠に、エネルギーに困らない地球」を作ることを会社の目的としています。

 事業の柱は三つあります。(1)大型蓄電池の製造・販売、(2)電気自動車(EV)の充電ステーションの開発・運営、(3)電気運搬船の開発・製造──です。日本の蓄電池市場は2030年に6兆円、50年には28兆円になると予想されています。日本で一番、二酸化炭素(CO2)を排出しているのは電力部門で、年10億トンのCO2排出量のうち、42%を占めています。電力部門のCO2を減らすため、太陽光発電の割合は30年には現在の2倍に増えると見られています。しかし、太陽光は昼間にしか発電できません。そこで、昼間に余った電気を電池にため、夜間に使えば、夜に動かしている火力発電所を止め、CO2を減らせます。このことが、今、蓄電池の爆発的な普及をもたらしています。

 蓄電池のセル(単電池)は、発火リスクが少ないリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池を使います。セルは中国や韓国など海外メーカーから購入し、徳島県の提携工場や岡山県の自社工場でモジュールとして組み立てます。徳島での生産開始は6月から。国産のセルに比べ、大幅に安くできます。その代わり、蓄電池の充放電を制御するソフトウエアは全部自社製です。経済安全保障上も、エネルギーを制御するソフトは日本製であることが必要です。

電気運搬船で再エネを運ぶ

EV用の急送充電器は最大出力240キロワット時で充電可能

 EV用の急速充電器は蓄電池を内蔵しているのが特徴です。高圧電線から電気を取り込むための高圧受電設備(キュービクル)が不要で、かつ、電気料金は低圧での契約なので、導入費用を低く抑えることが可能です。充電出力は国内最速の最大240キロワット時。今年の夏までに全国10カ所に設置します。来年には100カ所、将来的にはフランチャイズ形式で全国7000カ所を目指しています。

 電気運搬船は、短距離の電力輸送に大きな価値があります。例えば、北海道では大量の再エネが余っていますが、北海道と本州を結ぶ電気ケーブルは2本しかありません。そこで、北海道の海沿いにある休止された火力発電所の系統の送電線を経由して船に充電し、船で本州に渡ってから、同じく休止された火力発電所の系統の送電線につなぎます。電気運搬船の運搬コストは、今、1キロワット時当たり15.6円ですが、これが、7~8円まで下がると一般送配電事業者の託送料と変わらなくなります。電気運搬船は海が深くて海底ケーブルを敷設することが困難な浮体式の洋上風力にも使えます。

 会社設立は、前職のZOZOの時に、浮体式の洋上風力の課題はケーブルだとニュースで知り、「だったら船で運べばいいじゃないか」と考えたのがきっかけです。昔から、発明に興味があり、社会にインパクトがある仕事がしたいと考えていました。電池を起点にした新興企業なら、再エネと脱炭素で、ものすごくインパクトが与えられるのではないかと。なので、我々は蓄電池メーカーではなく、次世代型のエネルギー企業を目指しています。

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企業概要

事業内容:大型蓄電池の製造・販売、EV用急速充電器の開発・運営、電気運搬船の開発・製造

本社所在地:東京都港区

設立:2021年3月

資本金:58億円

従業員数:76人

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 ■人物略歴

いとう・まさひろ

 1983年東京都生まれ、兵庫県出身。2001年大阪インターナショナル卒業。00年ヤッパ設立、14年スタートトゥデイ(現ZOZO)にヤッパの株式を売却、17年ZOZO取締役、19年同最高執行責任者(COO)。21年パワーエックスを創業し、社長兼最高経営責任者(CEO)に就任。39歳。

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週刊エコノミスト2023年5月2・9日合併号掲載

伊藤正裕 パワーエックス社長 蓄電池の国産化で再エネ導入を加速