飛騨の広葉樹の可能性に挑む

飛騨の森でクマは踊る(通称ヒダクマ)代表取締役社長CEO 岩岡孝太郎 2026.02.02

 岐阜県飛騨市を拠点に、同地域に広がる広葉樹の森の活用・循環・価値創造に取り組む。デジタルものづくりカフェ「FabCafe Hida」(ファブカフェ ヒダ)を運営しながら、「森と人の共生」を目指している。(聞き手=内山勢・地域ジャーナリスト)

「飛騨の森でクマは踊る」(通称ヒダクマ)という社名は、人とクマが森の恵みを分かち合うことができる「人もクマも楽しく踊って暮らせる」ような、豊かな森とまちづくりをしたいという思いで名付けられました。

 岐阜県飛騨市の森林率は約9割で、そのうち約7割は広葉樹です。森に入ればミズナラ、ブナなど多種多様な広葉樹が広がっています。ヒダクマはそうした広葉樹の可能性を引き出すために、多くの人を森へ招き、森林資源を起点としたものづくりに取り組んでいます。

 その拠点として、飛騨市にある築100年以上の古民家を改修し、「FabCafe Hida」を運営しています。3Dプリンターやレーザーカッターなどデジタル工作機器を備えた工房とカフェ、ホステル(簡易宿泊施設)を兼ね、カフェを訪れた人たちに飛騨の木を使ったものづくりや森のツアーなど滞在体験型プログラムのワークショップを行っています。

 広葉樹はスギやヒノキなどの針葉樹と違い、細かったり曲がっていたりして建築材に向かず、その多くはパルプの原料やキノコの菌床などのチップ材として安価に取引されています。でも、飛騨地域には「飛騨の匠」といわれる水準の高い木工技術を受け継いだ大工や家具職人が多数活躍しており、もともとは地域の広葉樹の特性を生かした優れた建築や家具づくりが行われてきた歴史があります。

 私たちはそうした地元の職人や林業関係者と共に、地域の森から地域のものづくりの現場へ広葉樹が流通するバリューチェーンを再構築した上で、建築家やデザイナーたちの新しいアイデアと掛け合わせることで、「森に関わることはクリエーティブである」状況を目指しています。

 ロフトワークという会社で2012年に第1号の「FabCafe Tokyo」を東京・渋谷に開設したことが、後に飛騨市との縁につながりました。全国の森林を有する自治体で地域商社をプロデュースしている「トビムシ」の松本剛さん(現ヒダクマ共同代表)から、「飛騨市にもFabCafeを開設しませんか」との誘いがロフトワークの林千晶さん(現ヒダクマ会長)にありました。

森の魅力にハマる

 その後、ロフトワーク、トビムシ、飛騨市の出資で15年にヒダクマが設立され、翌年にFabCafe Hidaを開設しました。私自身、当初はFabCafe Hidaを立ち上げるために仕事で来たつもりが、飛騨の森の魅力にハマり、継続して運営を担うことになりました。

 私は飛騨市出身ではありませんし、他のメンバーも多くが移住者です。一方で株主に飛騨市も入る第三セクターの会社です。まず地域の人たちと意見交換する小さな会から始め、地元の祭りや商工会青年部にも参加させてもらいながら交流を深めていくと、「地域資源を使ったものづくりがしたい、まちを盛り上げたい」と挑戦する気持ちは同じであることに気づきました。

 ヒダクマが目指すのは、「森との関わり方を知っていて、誰もが資源を生かす」ことができる未来です。私たちと一緒に森に入り「森から始まるプロジェクト」をしましょう。

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企業概要

事業内容:飛騨地域の広葉樹を中心にした森林資源を活用するデザインとものづくり、地元の林業、木工、建築業者などと連携した新事業開発。ホステルと森での滞在体験型プログラム提供

本社所在地:岐阜県飛騨市

設立:2015年5月

資本金:2818万9000円

従業員数:16人

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■人物略歴

いわおか・こうたろう
 1984年1月生まれ。2006年千葉大学工学部卒業。慶応義塾大学大学院でデジタルファブリケーション(デジタルものづくり)を研究し、11年同大学院修士課程修了、同年ロフトワーク入社。12年デジタルものづくりカフェ「FabCafe Tokyo」を開設。15年「飛騨の森でクマは踊る」(通称ヒダクマ)創業に参加し、16年に国内2号となる「FabCafe Hida」を開設。都内と岐阜県飛騨市の2拠点生活。FabCafeは25年12月現在、台北やスペイン・バルセロナなど国内外13カ所に。

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週刊エコノミスト2026年2月10日号掲載

岩岡孝太郎 飛騨の森でクマは踊る(通称ヒダクマ)代表取締役社長CEO 飛騨の広葉樹の可能性に挑む