小売店業務を解決するロボットで世界へ
MUSE代表取締役CEO 笠置泰孝 2025.06.16
品出しに欠品チェック、表示価格の正否まで。何人分もの働きをしてくれるロボットが、人手不足のスーパーで活躍している。(聞き手=永野原梨香・ライター)
当社の開発したストアロボット「Armo One(アルモ ワン)」は、名前の通り、小売店での使用を想定して開発したロボットです。直径32センチ、12キログラムの小型ロボットですが、さまざまな業務を一手に引き受けてくれます。
まずは、品出しです。Armo Oneに台車ユニット(ショッピングカートのような台車)を取り付け、そこに従業員の方が商品を積むと、Armo Oneがユニットをけん引しながら自らバックヤードを出て、目的の商品棚へ移動してくれます。けん引できる重量は100キログラムまで。従業員の方々の体力的な負担軽減につながります。
その他の店内業務もお手の物です。現在、ほとんどのスーパーの店内業務はデジタル化されておらず、欠品チェック一つとっても、従業員の方々が店内の商品棚を回り、どの商品が何個足りていないか目で確認しメモを取って、不足分をバックヤードから持ってきて並べています。なかには、人手不足でどの商品が欠品しているのかすら把握できず、機会損失が発生している店舗もあります。
Armo OneとAIカメラ搭載の撮影ユニットを使って商品棚を撮影すれば、欠品の有無、表示価格が正しいか、などをクラウド上からリアルタイムで確認することができます。将来的には画像の解析結果をもとに、店舗ごとの最適な棚割りを作成することも可能になります。
一般的なお掃除ロボットや配膳ロボットは、店内のどこに何があるかをロボットに記憶させる機能(マッピング機能)がついていますが、この機能をつけると、ロボット自体に高精度のセンサーを搭載する必要があるため製品を作るコストが高くなります。そこで、私たちはマッピング機能が不要な仕組みを開発しました。また、人や障害物はカメラ(製品中央の目のような部分)と製品上部のレーザーセンサーで把握し、避けながら進みます。
サブスク料金は非公表。24時間稼働した想定で計算した場合、時給は100円ほどです。現在、スーパーのベルク(本社・埼玉県)はじめ、約10社が導入、または導入予定です。
大学時代、愛知万博のロボットパビリオンで人型ロボットを見たことが、ロボットに興味を持ったきっかけです。「少子高齢化で起こる一番の社会変化は人手不足。それを解決する最も有効な手立てはロボットだ」と長年、思い続けてきました。証券会社などを経て、ロボット開発会社に転職。物流ロボットの立ち上げから量産・販売まで携わりました。倉庫や工場に導入されることがほとんどでしたが、小売店舗の方々から「品出しにロボットを使えないか」という切実な声が多くありました。それならば、と小売店専用のロボットを作ることにしたのです。
テキサスで事業展開
2024年7月、テキサス州に米国法人を立ち上げました。今年3月に同州で開催されたスタートアップピッチコンテスト「SXSW Pitch」のロボット部門では、日本企業として初めてファイナリストに選出されました。今秋には、現地での導入のための実証実験を計画しています。欧州、豪州への進出も検討しています。
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企業概要
事業内容:小売店舗向けロボットの開発
本社所在地:東京都中央区
設立:2022年4月
資本金:1億円
従業員数:32人
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■人物略歴
かさぎ・やすたか
1983年、福岡県出身。2007年9月、一橋大学商学部卒業。在学中の05年11月、新日本有限責任監査法人入社。その後、ゴールドマン・サックス証券を経てZMP入社。物流ロボット「CarriRo」シリーズの立ち上げから量産拡販まで7年間従事。のべ国内で300社以上の倉庫や工場に導入。22年4月、MUSE創業。Twitter(現・X)などを輩出したことで知られるピッチコンテスト「SXSW Pitch」のロボット部門にて日本企業として初めてファイナリストに選出される。
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週刊エコノミスト2025年6月24日号掲載
笠置泰孝 MUSE代表取締役CEO 小売店業務を解決するロボットで世界へ