非接触で心拍数、自律神経を計測

センシング代表取締役CEO  金一石  2023.07.31

センシング代表取締役CEO 金一石

 スマホで手軽に、自律神経失調症などを診断するシステムを開発している。(聞き手=稲留正英・編集部)

 スマートフォン(スマホ)のカメラで、肌を動画撮影し、その色や動きから健康状態を測り、自律神経失調症などの予防に役立てるシステムを開発しています。

 核となるのが、「色素成分分離」という技術です。赤、緑、青で構成されたRGBの画像から、赤血球に含まれる赤色素たんぱく質である「ヘモグロビン」の動きを読み取ります。

 この画像から、まず、心拍数を測ります。心拍情報から、血圧や心拍を下げるなど自律神経をリラックスさせる「副交感神経」の動きを示す高周波(High Frequency:HF)成分、血圧や心拍を上げるなど体の機能を活発化させる「交感神経」の動きを反映する低周波(Low Frequency:LF)成分を抽出します。LFとHFの比率を表すLF/HF値は、数値が高いと「集中力が高まっている」、低いと「リラックスしている」ことを示します。計測時間内の平均値から、その人が緊張しているのか、くつろいでいるのか、などを判断していきます。

精度は90%以上

医療情報会社メディカル・データ・ビジョン(MDV)と技術提携を発表(2022年10月) MDV提供

 使い方は、スマホで専用のアプリをダウンロードし、インカメラで自分の顔を約45秒間撮影するだけです。得られた情報から、「グッタリ」「のんびり」「ハツラツ」などの状態をスマホ画面に表示します。

 心拍数やLF/HF値は従来、心電計やパルスオキシメーターでしか計測ができませんでした。当社は、これを非接触のスマホで実現したところがポイントです。精度は脈拍に関しては99%、自律神経については、90%以上です。

 自律神経失調症は、ストレスなどで副交感神経と交感神経のバランスが崩れることで発生し、不眠、動悸(どうき)、めまい、立ちくらみ、情緒不安定などを引き起こします。しかし、通常、病院では感染症などの診断はしますが、自立神経失調症は診ません。当社のアプリを使えば、体調不良の診断を、日々、手軽にできます。

 当社はこのシステムを政府の「デジタル田園都市国家構想」の中で、岡山県吉備中央町に提供し、高齢者を見守るアプリの中で実装してもらっています。さらに、医療情報会社メディカル・データ・ビジョン(MDV)と提携し、同社が展開する個人向け診療情報管理アプリ「カルテコ」の一機能として採用してもらう予定です。料金は月額200~1000円程度になる見通しです。

 この技術は元々は、広告や映画などのコンテンツを視聴しているときに、視聴者がどのように感じているかという「情動」を計測するために開発しました。しかし、新型コロナの発生により、イベントなどでコンテンツを視聴する機会が激減。一方で、オンライン診療のニーズが急速に高まるなか、非接触で健康状態を測るツールとして使えないかとの問い合わせをたくさんもらいました。そこで、当初の目的とは全く違った方向に開発をシフトしました。

 この技術はペットでも、体毛の少ない肉球などを撮影して、自律神経の活動を読み取り、体調管理に生かしたいと考えています。

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企業概要

事業内容:非接触の生体情報計測手法の研究と市場展開

本社所在地:東京都港区

設立:2019年12月

資本金:3億円

従業員数:4人

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週刊エコノミスト2023年8月8日号掲載

挑戦者2023 金一石 センシング代表取締役CEO 非接触で心拍数、自律神経を計測